ロシア・ロマン主義文学における心理主義

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西欧では心理小説は小説文学の発達に大きな役割を果たした,ひとつの明確なジャンルであったが,ロシア文学においては心理小説は文学史上希薄な存在で,項目を立てていない文学事典も多い.しかし,ロシア文学研究にこの概念が欠落しているわけではなく,レールモントやドストエフスキイのように心理描写に非凡な才能を示した作家もいる.ただ心理小説はそれと対立する諸ジャンルの所為で文学史の表舞台に立つ機会が少なく,ジャンルとして市民権を得にくかったものと思われる.  ロシアの心理小説はフランスやイギリスの場合と異なり,センチメンタリズムの代表的作家であったカラムジンを経て,ロマン主義の時代に擡頭した.ロシア文学における心理小説の特徴を明らかにするために,本稿ではロマン主義文学における心理描写について考察した.特に,この時期に重要な役割を果たしたA.ベストゥージェフ=マルリンスキイの作品,および1830・40代年における心理小説とロシア自然派の関係に照明をあてている.

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