解剖学的異常を認めない膝窩動脈捕捉症候群の1例

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  • Functional Type of Popliteal Artery Entrapment Syndrome: A Case of Report

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抄録

<p>症例は30歳代男性.主訴は間欠性跛行.高血圧,脂質異常症,I型糖尿病(腎症,網膜症,神経障害),慢性甲状腺炎の既往歴がある.身長166 cm,体重79 kg,血圧130/80 mmHg,脈拍90回/分・整,両側足背動脈および後脛骨動脈は触知可能.20XX年10月,長時間歩行後に下肢の脱力感を自覚,階段昇降に伴う間欠性跛行をきたすようになった.1年前の足関節上腕血圧比(Ankle-Brachial Pressure Index: ABI)検査では右側1.09,左側1.11であり,末梢動脈の閉塞性疾患を認めなかった.症状が増悪するため1年後に再検したABI検査では,右側0.74,左側0.79と低下していた.閉塞性動脈硬化症が疑われたため,当院の循環器内科に紹介となり,下肢動脈超音波検査が依頼された.その結果,下肢動脈は全域で動脈硬化性変化に乏しく,下腿三分枝まで血流は良好に保たれていた.しかし,足関節を底屈したところ,両側ともに膝窩動脈が狭小化し,下腿三分枝の血流速度が有意に低下した.超音波検査では血管の走行異常や異常筋束は指摘できなかったが,膝窩動脈の狭小化を認めることから,膝窩動脈捕捉症候群が疑われた.マスター2階段運動負荷ABI検査は,安静時に右側1.20,左側1.27であったが,運動負荷後では右側0.86,左側0.94と低下を認めた.造影CT検査およびMRI検査では膝窩動脈に有意な狭窄はなく,腓腹筋など膝窩部筋肉の付着異常や異常筋束も認めなかった.下肢血管造影検査では,超音波検査と同様に足関節の底屈時に膝窩動脈が狭小化し,下腿三分枝の血流が低下したため,膝窩動脈捕捉症候群と診断した.膝窩動脈捕捉症候群は腓腹筋の付着異常や異常筋束により,膝窩動脈が捕捉あるいは圧迫され下肢の虚血性障害を引き起こす疾患である.しかし,本症のように解剖学的異常を認めない例も少なからず存在し,負荷中の血行動態を把握することが可能な下肢動脈超音波検査が診断に有用であった.</p>

収録刊行物

  • 超音波検査技術

    超音波検査技術 41 (5), 513-520, 2016

    一般社団法人 日本超音波検査学会

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