黒ヤジュルヴェーダ・サンヒターにおけるupa-sthaの用法

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  • On the Usage of upa-stha in the Black Yajurveda-Samhitas

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抄録

upa-sthaという動詞は,黒Yajurveda-Samhitaの散文においては,(1)礼拝する,(2)仕える,そばにつき従う,という2つの意味に限定して用いられる.これらのうちで,具格を伴う例が約3分の1を占める(288例中91例).本稿ではこの用法について考察した.まず,具格を伴うupa-sthaは,全て(1)の意味で使用されており,Agnyupasthana(祭火の礼拝)の部分に57例,Agnicayana(祭火壇構築祭)の部分に27例,その他の部分に7例見出される.また,具格で示される対象を7種類((1)唱える詩節の数,(2)代名詞,(3)韻律又は韻律名,(4)唱えられるマントラが捧げられる神格やそのマントラに含まれる語,(5)マントラの名前,(6)Saman名,(7)その他(2例))に分けて調査した結果,(6)までは具格によってマントラが示されていると断定できるが,以下の(7)の2例に関しては更なる検討を要することがわかった.第1例: Kathaka-Samhita 20.5 (23,11-12) sarpasirsair upatisthate 第2例: Kathaka-Samhita 35.17 (62,18-63,1) manasopatistheta 特に前者のsarpasirsaniが何を意味するかは不明である.ただしMaitrayani Samhita 3.2.6 (23,16-18)の中のこの語に対応すると見られるsarpanamaniは特定のマントラを指すということが,Srautasutraによって知られている.これらの点を踏まえて,以下の結論を導き出した.Rgvedaなどそれ以前の文献では,upa-sthaと具格の結びつきは強くなく,また,具格によって示される語の意味が限定されることはなかった.しかし,黒Yajurveda-Samhitaの散文においては,upa-sthaが具格を伴う場合は,必ず「礼拝する」という意味で用いられ,その具格は,不明の1例((7)の第1例-sarpasirsani)を除いて全てマントラを示すことが明らかになった.従って,この例もマントラの呼称である蓋然性が高く,sarpasirsaniとsarpanamaniが同一のマントラを指す可能性も否定できない.マントラが具格によって示されるのは珍しくはないが,upa-sthaの場合,具格がそれ以外の意味で使われることがないということ,更に,Agnyupasthanaの次にAgnicayanaの部分にこの用法が多く見られるという点に注意すべきであろう.

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