円背を呈する高齢者の立ち上がり動作解析
説明
【目的】円背を呈する高齢者は、脊柱後彎を増加して立ち上がりを行おうとし、身体重心の前方移動を十分に行えない事が臨床上観察される.本研究では、円背を呈する高齢者を対象とし、立ち上がり開始姿勢から離殿の間に、脊柱彎曲や体幹傾斜がどのように変化するか、また脊柱彎曲の頂点より上部の体節部(以下上部体節)と下部の体節部(以下下部体節)がどのように変化するかを検討した.<BR>【対象と方法】対象は圧迫骨折を除いた、重篤な運動機能障害を有しない、円背を呈する高齢女性6名とした.年齢84.3±4.3歳であった.主治医の承諾を得て本研究の目的と方法を説明し同意が得られた後、計測を行った.自然な座位を開始姿勢とし、40cmの椅子から、通常の速度で上肢の支持なしに、自由に立ち上がりを行った.被験者の第7頚椎棘突起(以下C7)・脊柱彎曲の頂点・第4腰椎棘突起(以下L4)にマーカーを貼付し、デジタルビデオカメラ(Panasonic社製SDR-S100)にて、3回撮影し、開始姿勢・離殿時(最も頭部が前方に来る点と規定)を静止画で記録した.得られた画像より、脊柱後彎の定量的評価として円背指数(C7とL4を結ぶ直線をL(cm)、直線Lから彎曲の頂点までの距離をH(cm)とし、Milneらの式を用い、その割合を円背指数(H/L×100)として算出)を求めた.また、上部体節・下部体節の動きにおける変化の目安として、LとHの交点を求め、交点よりC7までの距離をLa(cm)、交点からL4までの距離をLb(cm)とした.また、体幹傾斜の目安として、鉛直線とLのなす角を求めた.3回の立ち上がりの開始姿勢と離殿時それぞれの画像より上記の指標を計測し、各数値の平均を求め比較・検討した.<BR>【結果】本計測より、Lは増加、Hは減少、Laは減少、Lbは増加、円背指数は減少、Lと鉛直線のなす角は増加という傾向が得られた.すなわち脊柱後彎は減少し、上部体節の動きも減少、下部体節の動きは増加し、体幹傾斜は増加した.<BR>【考察】臨床上、円背を呈する高齢者が脊柱後彎を増加して立ち上がろうとし、動作が困難になる場面を見受けるが、脊柱後彎を増加させる事では、身体重心の前方移動が十分に行えず、このような結果となると推察する.今回対象となった円背を呈するが立ち上がりの可能な高齢者の多くは、脊柱後彎を減少させながら、体幹傾斜角度を増加させるというパターンをとった.また、脊柱後彎減少の要因として、主に下部体節部の距離の増加が見られた.すなわち、円背を呈する高齢者が身体重心の前方移動を行う為には、下部体節部の伸長が関わっている事が示唆された.従って、立ち上がりが困難な円背を呈する高齢者への動作指導の際には、体幹傾斜を増加するという指示のみでは不十分であり、下部体節部の伸長を促す事が必要であると考えられる.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), C3P2383-C3P2383, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205568231680
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- NII論文ID
- 130004580782
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可