肉眼解剖による前脛骨筋のモーターポイントの位置の特定

  • 成田 大一
    弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域 弘前大学大学院医学研究科生体構造医科学講座
  • 千葉 正司
    弘前大学大学院保健学研究科医療生命科学領域
  • 外崎 敬和
    弘前大学大学院医学研究科生体構造医科学講座
  • 吉田 英樹
    弘前大学大学院保健学研究科健康支援科学領域
  • 溝畑 日出昌
    独立行政法人国立病院機構福井病院
  • 渡邉 誠二
    弘前大学大学院医学研究科生体構造医科学講座
  • 一戸 紀孝
    弘前大学大学院医学研究科生体構造医科学講座

説明

【目的】<BR> モーターポイント(MP)は,神経が筋腹に侵入する部位および体表からの電気刺激で最も筋収縮が起こりやすい部位と定義されている。そのため,神経筋電気刺激療法では,MP上に電極を配置することにより効率的に筋収縮を得ることができるとされ,MPは治療ターゲットとされる。しかし,MPの位置を定量的に示した報告は少なく,治療者の主観で電極の配置場所が選択されることが多く,効率的な筋収縮が得られる位置が選択されているかは不明である。そこで,本研究では前脛骨筋を対象として肉眼解剖により,支配神経である深腓骨神経が筋腹に侵入する部位を解剖学的指標から定量的に求め,効率的な治療点としてのMPを特定することを目的とする。<BR>【方法】<BR> 弘前大学医学部医学科及び保健学科の平成21年度解剖実習体12体16肢(男性10肢,女性6肢)を対象とした。対象の下腿の皮膚及び皮下組織を取り除き,前脛骨筋,長指伸筋,長腓骨筋を露出した。長指伸筋,長腓骨筋は腓骨頭よりやや遠位で切開し,外側へ反転した。その後,深腓骨神経を剖出し,筋枝が前脛骨筋に侵入する部位(MP)を同定した。深腓骨神経からは前脛骨筋の筋枝が複数分岐するため,神経が筋腹に侵入する直前の本数と太さを測定した。<BR> 基準線を腓骨頭と外果を結ぶ線として,その長さをY’とし,MPから基準線への垂線の長さ(X),腓骨頭から垂線と基準線が交わる点までの距離(Y),垂線上の前脛骨筋の幅(Z’),垂線上の前脛骨筋の内側縁からMPまでの距離(Z)を測定した。また基準線上の腓骨頭からの距離及び垂線上の前脛骨筋の内側縁からMPまでの距離は,それぞれ基準線の長さ及び前脛骨筋の幅で除し,百分率(Y/Y’×100,Z/Z’×100)を算出した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象は解剖実習のために提供されたご献体であり同意は得られている。<BR>【結果】<BR> 深腓骨神経からの筋枝が前脛骨筋に侵入する直前の本数は中央値8本(6~11本)であった。基準線の長さ(Y’)は平均29.9±1.6cmであった。全体の約3分の2の筋枝が基準線の近位3分の1の範囲の前脛骨筋に分布していた。特に最も太い筋枝(太さ1.2±0.2mm)は常に基準線の近位3分の1の範囲に存在し,X:3.5±0.4cm,Y:4.2±1.0cm(Y/Y’×100:13.9±3.6%),Z:1.7±0.4cm(Z/Z’×100:66.5±14.2%)であった。残り約3分の1の筋枝は,基準線の中央3分の1の範囲の前脛骨筋に分布し,その中で最も太い筋枝(太さ0.8±0.2mm)はX:3.2±0.4cm,Y:13.3±2.2cm(Y/Y’×100:44.5±7.9%) ,Z:2.0±0.6cm(Z/Z’×100:85.9±12.5%)に存在していた。<BR>【考察】<BR> これまでの理学療法の成書ではMPは体表上に点で示されているものがほとんどであり,定量的な情報を提供するものは少なく,また複数の筋枝が存在する筋の場合,MPも複数存在する場合があることは示されていなかった。本研究の結果から前脛骨筋は複数の筋枝が存在するため,複数のMPが存在することが示された。このような場合は,どのMPを治療点として用いるか問題になるが,前脛骨筋では基準線の近位3分の1の範囲に分布する最も太い筋枝に着目した場合,その筋枝は常に一定の部位に存在するとともに,周囲には多くの筋枝が集中している。そのため電気刺激療法の電極の大きさを考慮に入れた場合,この最も太い筋枝を中心として電極を配置することにより,最も効率的に筋収縮を得ることができるのではないかと考える。<BR> しかし,筋枝は前脛骨筋の深層から筋腹に侵入したのち,さらに筋内で分岐し,筋に分布している。MPから離れた部位にも体表からの電気刺激により筋収縮が起こりやすい部位が存在するという報告もあり,筋内での神経分布の関与も考えられる。今後は筋内の神経分布を詳細に調査するとともに,電気生理学的な手法も用いて,解剖学的な結果との関連を検討し,モーターポイントの部位を特定していこうと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> これまでは定性的にしか示されていなかったMPを定量的に示す事により,治療部位を正確に求めることができるという点で非常に重要なことだと考える。また,肉眼解剖という近年理学療法学分野からの要望が高まっている分野との学際的な研究であり,今後発展性があるものとして意義があると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P2071-A4P2071, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573636224
  • NII論文ID
    130004581880
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p2071.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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