残業時間の要因分析

DOI
  • 小檜山 希
    (有)リハビリ健康社 訪問看護ステーションあすか

書誌事項

タイトル別名
  • 千葉県理学療法士会アンケート調査から

抄録

【目的】<BR> 日本では、中長期的な少子高齢化と労働力不足が予測される中で、働く意欲と能力のある人の環境を整備することに関心が持たれており、平成 19年には「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が決定されている。<BR> ワーク・ライフ・バランスを推進する日本の課題に、長時間労働がある。労働時間に関しては、企業における研究は多くみられるが、理学療法士に関するものは、多くない。<BR> 近年、理学療法士の就業に関して、育児休業を含めた調査が神奈川県理学療法士会、長野県理学療法士会、千葉県理学療法士会などで行われており、興味深い結果が報告されている。今回は、千葉県のアンケート調査を使用し、子育て時期のみでなく、すべての世代のワーク・ライフ・バランスに関係する、残業時間に関する要因分析を行った。いくつかの知見を得たので、以下に報告する。<BR>【方法】<BR> 使用するデータは、千葉県理学療法士会女性会員支援推進委員会が実施した、アンケート調査である。調査対象は千葉県士会に所属する全会員(1,561名)、調査期間は2008年8月から10月、回収率は26.4%であった。分析対象としたのは現在働いている常勤職員で回答に欠損値のないもの(n=263)である。<BR> 本研究におけるモデルでは、残業時間は、個人・家族要因、人的資本要因、労働条件要因によって決定すると考える。個人・家族変数は、時間制約の可能性を考慮するために使用する。人的資本変数は、経験年数は一般的、勤続は企業内の熟練を表す変数として使用した。また、残業時間は、労働環境から生じると考えられるため、説明変数として使用した。<BR> 残業時間として使用する設問は、「実質残業時間は月何時間ですか。当てはまる番号を1つお書きください。」から選択する設問である。10時間を1カテゴリとして区切られた5段階に分類した後、5、15、25、35、45に変換した。最大値45は41時間以上を示している。この残業時間階級値を被説明変数とした。<BR> 説明変数は、個人・家族変数では年齢、性別、婚姻関係、同居の子どもの有無、要介護者の有無を用いた。人的資本変数では経験年数、勤続年数、労働条件変では、勤務施設(基準は一般病院)、有給休暇取得日数、サービス残業の有無、年収階級値、役職の有無、理学療法士数とした。推計には、最小二乗法を用いた。使用したソフトウエアは、Stata/IC10.0(Stata Corp.)である。<BR>【説明と同意】<BR> アンケート調査実施時に、データ利用について明記した。<BR>【結果】<BR> 有意水準1%で、大学病院ダミー、サービス残業ありダミーが正で有意、5%で有給休暇取得日数が負に有意、10%で有意で、勤続年数が正、女性ダミーが負で有意であった。<BR>【考察】<BR> 他の条件を統制した場合、勤務施設でいえば、大学病院が最も残業時間が長いという結果が得られた。大学病院は研究機関でもあるため、他の施設に比べ多様な役割があること、また急性期を対象としているため患者の入れ替わりもが激しいこと、病床数に対して理学療法士の数が少ないことが、一人当たりの残業時間を増加させていると考えられる。<BR> また、サービス残業がない場合に比べ、ある場合でより残業時間が長いこと、そして、有給休暇取得日数が低いほど、残業時間が伸びることもわかった。有給休暇が取れない環境が、残業時間を増加させるのは、同様の管理体制から生じていると考えられ、整合的であろう。しかし、サービス残業に関しては、残業時間が長くなってしまったため、申告できないといった逆の因果関係も考えられる。<BR> 勤続年数に関しては、役職がなくとも会議や学生等の指導など、業務量が増えることがあろう。<BR> また、日本は男女計の家事・育児時間に占める男性割合が12.5%と低く、このような仕事以外の制約から、女性が残業時間の短縮化を図っていると考えられよう。<BR> 本研究では、ワーク・ライフ・バランスに関連のある残業時間の要因分析を行った。千葉県士会の調査を使用した二次分析であり、分析は限定的なものである。しかし、いくつかの示唆が得られた。大学病院勤務者は厳しい状況にあり、また、有給休暇、勤続年数と残業時間管理に関連があることから、残業を減少させる管理には、この3つを考慮して行う必要があると考えられる。<BR> 女性会員支援推進委員会では、千葉県理学療法士協会、アンケートにご回答いただいた会員の皆様の協力を得て、調査を行うことができた。またデータを使用させて頂く事で本研究を行う事ができた。厚く御礼申し上げる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究は、理学療法士の人事管理に示唆を与えるものであり、意義のあるものと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), G4P2320-G4P2320, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573826304
  • NII論文ID
    130004582974
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.g4p2320.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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