嚥下障害を有する肺炎患者の嚥下筋活動と栄養状態の特徴

DOI
  • 酒井 康成
    信州大学医学部附属病院 リハビリテーション部 信州大学大学院医学系研究科
  • 山鹿 隆義
    信州大学医学部附属病院 リハビリテーション部 信州大学大学院医学系研究科
  • 大平 雅美
    信州大学医学部保健学科 理学療法学専攻
  • 横川 吉晴
    信州大学医学部保健学科 理学療法学専攻
  • 坂本 虎雄
    昭和伊南総合病院 リハビリテーション科
  • 菊池 茉奈
    昭和伊南総合病院 リハビリテーション科
  • 山田 早希
    昭和伊南総合病院 リハビリテーション科
  • 吉村 康夫
    信州大学医学部附属病院 リハビリテーション部

抄録

【はじめに,目的】肺炎は日本人の死因順位別死亡数の第3位であり,高齢化にともない今後さらに増加すると考えられる。また高齢者では肺炎罹患患者のうち70%が誤嚥によるものとされている。呼吸と嚥下は密接に関係しており,嚥下障害は低栄養や誤嚥をもたらす。しかし肺炎患者における嚥下筋活動および嚥下機能に関した先行研究はないのが現状であり,嚥下機能に対しての治療戦略には筋活動を踏まえた評価が必要となる。また栄養状態の把握も必要である。今回肺炎患者の摂食開始時の嚥下障害の有無が2週間後の嚥下筋活動や嚥下機能,栄養状態に及ぼす影響があるのかを検討した。【方法】対象は肺炎の診断にて入院した49名(男性25名,女性24名,年齢83.1±7.3歳)。なお肺炎以外の診断がついた者は対象から除外した。測定項目は年齢,性別,BMI,絶食期間,摂食開始時および2週間後での反復唾液飲みテスト(RSST),表面筋電図検査(sEMG),ALB値,CRP値,白血球数とした。sEMGは舌骨上筋群と舌骨下筋群に記録用電極を貼付し,嚥下時間,最大筋活動および単位時間当たりの筋積分値(iEMG;μV)を求めた。対象者を摂食開始時のRSSTによって嚥下障害あり群(A群)となし群(B群)の2群に分け嚥下筋活動および嚥下機能と栄養状態の比較検討を行った。なお統計学的解析は対応のないT-検定およびMann-Whitney検定を用いた。【結果】摂食開始時のRSST(A群1.5±0.8回vsB群3.5±0.7回)とALB値(A群2.8±0.6g/dlvsB群3.2±0.5g/dl)はA群の方が有意に低値を認めた。嚥下時間(A群2.4±0.7秒vsB群1.9±0.4秒),舌骨上筋群の平均(A群70.4±53.3μVvsB群41.5±24.6μV)・最大活動量(A群195.3±86.3μVvsB群95.8±13.2μV),舌骨下筋群の平均(A群27.9±15.8μVvsB群17.6±13.4μV)・最大活動量(A群66.6±42.3μVvsB群40.9±27.7μV)はA群の方が有意に高値を認めた。2週間後のRSST(A群2.9±1.4回vsB群4.9±1.4回),ALB値(A群2.8±0.8g/dlvsB群3.4±0.6g/dl)はA群の方が有意に低値を認め,嚥下時間(A群2.2±0.9秒vsB群1.6±0.4秒)舌骨上筋群の平均(A群52.7±38.7μVvsB群32.9±16.2μV)・最大活動量(A群142.4±19.8μVvsB群62.9±22.9μV),舌骨下筋群の平均(A群26.7±19.9μVvsB群14.7±9.4μV)・最大活動量(A群62.3±60.0μVvsB群31.9±21.9μV)はA群の方が有意に高値を認めた。【結論】呼吸器疾患を有する患者では呼吸と嚥下のタイミングのズレが生じ誤嚥・嚥下障害を生じる。また肺炎患者は努力性呼吸や呼吸の増加,肺・気道内炎症,気道内分泌の増加から気道内圧が高まることによって嚥下障害を合併している可能性があるとされている。今回の結果から嚥下障害あり群は嚥下時の筋活動を高め努力性嚥下を行うことによって低下している嚥下機能を代償していると考えられた。また摂食開始時に嚥下障害があることで,その後も嚥下障害と低栄養状態が残存することが明らかとなった。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205577539712
  • NII論文ID
    130005417863
  • DOI
    10.14900/cjpt.2015.0820
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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