虚空と天主 : 中国・明末仏教のキリスト教批判

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タイトル別名
  • The Buddhist Critique of Christianity in the Ming Dynasty (1368-1661)
  • コクウ ト テンシュ チュウゴク ミンマツ ブッキョウ ノ キリストキョウ ヒハン

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抄録

中国におけるキリスト教布教は、イエズス会によって十六世紀末に始まった。十七世紀初頭に出版されたマテオ・リッチの教理書『天主実義』において、天主は無始無終の存在であり、万物の根源とされた。これに対して、明末高僧の雲棲〓宏は、天主は万億の神々の一人に過ぎず、抽象的な理でしかない、と批判した。次世代にあたる臨済禅僧の密雲円悟は、自己内心の普遍性である大道を主張し、弟子の費隠通容は大道の世界観を論じる。通容は、大道は虚空のように万物を包含すると同時に内在しており、悟りの有無にかかわらず天地と自己は本来的に一体であるとした。〓宏から通容までの天主批判は、仏者が異質な教えであるキリスト教に出会うことによって、仏教にとっての普遍性と世界観を自覚し、表現していった過程とみることができる。それは唯一絶対の他者である天主を踏切板として、遍在する虚空の大道が普遍として定義され、天主に対置されていく思想的道筋であった。

収録刊行物

  • 宗教研究

    宗教研究 84 (3), 661-681, 2010

    日本宗教学会

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