パレスチナ人の「政治的認知地図」

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  • A Political Mental Map of the Palestinians

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抄録

中東地域の国際政治を論じる際、地域レベルの国際システム構造に言及することは少なくない。国益、勢力均衡、パワーの分布状況やプロセスといった分析概念は対立と紛争を説明する上で有用である一方、国際システムの構造を可視化する試みは低調と言わざるを得ない。そこで著者の調査研究グループは中東地域の国際関係を描き出す手法を考案した。我々が「政治的認知地図」と呼ぶこの手法は、中東諸国の政府および域外諸国が中東の政治的安定に対する貢献の程度を問う世論調査データを必要とする。現地調査機関との協力により、われわれのグループは2009年5月に西岸地区、ガザ地区および占領下エルサレム地区での世論調査を実施した。本稿はパレスチナ人の「政治的認知地図」を作成することによって、各国の配置状況の認知構造を比較可能な形で提示することを目的とする。この研究において彼らが認識するパレスチナとアラブ諸国、およびイスラエル・トルコ・イラン、そして域外大国の相対的位置関係を可視化することで、アラブ・イスラーム諸国が近接した地域システムを形成していること、および域外諸国が大国グループを形成し、イスラエルはそこに位置づけられることが明らかになった。その上でアイデンティティとしてのウルーバ(アラブ性)と米国外交政策との距離感覚が「政治的認知地図」の構成要素になることが明らかにされた。また、これら二つの構成要素がパレスチナ人の有する(1)政治的イデオロギー、 (2)政策オプションに対する意見、および(3)政治情報の流通経路によって形成されるという仮説を立て、回帰分析によって仮説を検証した。分析結果からイスラーム主義ならびにアラブ民族主義とウルーバとは正の相関が強く、米国外交政策との距離感覚とは負の相関が強いことが明らかになった。このことはアイデンティティと外交認識およびイデオロギーに認知構造上で頑健な相関関係があることを表している。本稿は国際政治研究の方法論においても貢献している。すなわち、世論調査で得られた中東地域政治に関する一般大衆の認知情報を用いるという構成主義の方法によって、国際システム構造という現実主義の概念を導出可能なものとした。

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