<p>【はじめに】</p><p> 成人脊柱変形（以下、ASD）は、歩行障害を呈することが知られている。先行研究では、立位脊柱アライメント評価（静的脊柱アライメント評価）において、体幹前傾姿勢は歩行持久性の低下と関係するとした報告が散見される。しかし、いずれの研究においても動的環境での脊柱アライメント評価（動的脊柱アライメント評価）を行っていないことが限界としてあげられている。近年、ASD患者の歩行解析により、ASD患者は歩行時に体幹前傾角度が増加することが報告されている。動的脊柱アライメント不良は、歩行持久性に影響することが考えられるが、動的脊柱アライメントと歩行能力の関係については検討されていない。本研究の目的は、ASD患者の歩行持久性に静的および動的脊柱アライメントのどちらが影響するか検討することである。</p><p>【対象と方法】</p><p> 対象はSRS-Schwab Classificationを用いて、SVA＞4cmかつAll Coronal Curve＜30°を満たす女性ASD患者10名（73.3±6.2歳、150.8±4.4cm、51.6±6.7kg）とした。脊椎手術の既往や重篤な合併症をもつ者、独歩困難な者は除外した。検討項目は、歩行持久性と静的・動的脊柱アライメントとした。歩行持久性は10mの歩行路を往復して歩行不能となった時点の連続歩行距離用いた。脊柱アライメント評価は、三次元動作解析装置VICON MX（Oxford社；100Hz）と床反力計（AMTI社；1000Hz）を使用し、体幹セグメント（C7、T10、胸骨柄、剣状突起）と骨盤セグメント（両ASIS、両PSIS）を作成した。動作課題は立位保持5秒と至適速度による歩行動作3試行とし、立位、歩行時矢状面上の体幹傾斜角、骨盤傾斜角を測定した。立位における体幹・骨盤傾斜角を静的脊柱アライメント、歩行における体幹・骨盤傾斜角を動的脊柱アライメントとした。統計的解析はステップワイズ重回帰分析を用いて、連続歩行距離を独立変数、静的・動的脊柱アライメントを従属変数として解析を行った。有意水準はすべて5％とした。</p><p>【結果】</p><p> 連続歩行距離へ影響を及ぼす因子として、動的体幹傾斜角が有意な負の影響を及ぼす因子として選択された（β＝－0.77）。</p><p>【考察】</p><p> 歩行持久性に対して動的体幹傾斜角が影響を及ぼす因子であった。ASDの歩行障害の特徴は、歩行持続に伴い漸増する腰痛が主体と考えられている。動的体幹傾斜角が大きいほど、姿勢保持に要する筋活動が過剰となり、疼痛を誘発し連続歩行距離に影響したことが考えられる。しかし、現状では三次元動作解析装置は高価であり臨床で広く用いられてはいない。今回、矢状面上の角度を用いたが、二次元動作解析装置で測定できる可能性がある。今後、ビデオカメラなどを用いた測定で代用可能か検討し、臨床応用できる方法を検討していく。</p><p>【倫理的配慮，説明と同意】</p><p>本研究は所属機関倫理委員会の承認を得て実施した。（一般；承認番号29359）</p>