「ユニークベニュー」としての文化財活用の現状とその課題

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タイトル別名
  • Current state and Problems of Utilization of Cultural Properties as ‘Unique Venues’

抄録

<p>Ⅰ.研究背景と目的</p><p></p><p>音楽フェスの増加とともにライブエンタテインメント市場の伸び率が低下するなか,そうした競争で生き残るため,歴史的建造物や城跡などの特別な施設を会場とする音楽イベントが堅実に増え始めており,その中には地域の文化と結びつき,地域密着型のイベントもある(宮本2011)。その中でも,文化財建造物を観光庁の推奨するユニークベニューとして使用することへの期待は高い(羽田ほか,2011)。Tunbridge et al. (1996)は,ヘリテージの活用が,経済—文化的目的による「過去」の利用であると指摘した。本稿の研究対象地域である台湾と日本は,文化財の利活用を巡る制度がおおよそ同時期に進められる。つまり国内外を問わず,文化財の活用に関する方策が求められている。なお,文化財をライブ音楽会場として活用する事例研究報告は,そこに至るまでの経緯やメリット・デメリット含めて管見の限り少ない。以上を踏まえて,今後の文化財活用の増加を見据えて,本研究は台湾におけるライブ音楽空間としての文化財の利活用の実態と課題を明らかにする。</p><p></p><p>Ⅱ.調査方法</p><p></p><p>本研究は探索的性格の強い研究であるため,台湾における5つの代表的な事例を取り上げた。なお,渡航制限の続く現在の状況下で概要を把握するため,WEB上の情報を収集し,地理的情報と建物用途等を調査した。続いて,現在の運営状況および文化財保存の現状,文化財建造物を選択する積極的理由や課題について,運営者に電話およびオンラインでインタビュー調査を行った。</p><p></p><p>Ⅲ.調査結果</p><p></p><p> 台湾において文化財指定を受けたユニークベニューは全てライブハウスであり,「河岸留言 西門紅樓展演館」を除き,文化創意園区・自来水園区等の園区に位置する。なお,当該建造物の多くは日本統治時代に建設された建造物群である。日本統治時代,台湾総督府は庁舎や住宅,工場等の近代的建設を行った。戦後,台湾政府は実用主義的に,工場などの建造物の使用を続けた(Zang 2019)。その後,都市域の拡大と郊外化により,工場は郊外移転を進め,都心に残された工場や社宅跡地は利用がされなくなった(李2013)。その後,1980年代から1990年代にかけて,台湾の若者が文化的中心として使用を開始した。「園区」は,こうしたヘリテージ利活用を進めるため,「挑戦2008国家重点発展計画」(2002)に基づき設定した歴史的地区の一つである。「五大文化創意産業園区」は台北・台南駅などに位置する製酒工場・専売局を含む。五大文化創意産業園区の存在は台湾の他の工業遺跡の再利用に大きな影響を与えた。台湾の音楽文化(特にインディーズバンド)は,過去と現在の融合が可能となる工場・倉庫を音楽パフォーマンスの舞台とすることを嗜好する。そうした需要に反応し,園区にはライブハウスが進出した。また,インタビュー調査では,文化財建造物のある園区を会場として使用することはアーティストのブッキングや集客が容易等のメリットがある一方,ライブハウス運営側のコストが高いという課題がある。そこで,観客に対する取り扱い注意喚起の他,イベントの質の低下等もある。また,COVID-19の影響でレストランを併設する「Super 346 live house」を除き,3月から6月までの4ヶ月間,イベント数は通常の1割前後まで激減した。国からの補助金や積極的に会場レンタルへの取り組みなどによって,6月末から,イベント開催数が徐々に増えてきており,7月末の時点では現状に戻りつつあることが分かった。</p><p></p><p>【参考文献】 </p><p></p><p>羽田知弘・羽生冬佳(2011):MICE事業におけるユニークベニューとしての文化財活用の現状と課題. 日本観光研究学会全国大会学術論文集,26:409〜412.</p><p></p><p>宮本直美(2011):日本における音楽祭の変遷とオーセンティシティ. 社会学評論,62(3):375〜391.</p><p></p><p>李瑾(2013):中国・上海市における創意産業による旧工場の再利用と地域活性化に関する研究.大阪大学大学院工学研究科博士学位論文(未公刊).</p><p></p><p>Tunbridge, J. E., and G. J. Ashworth. (1996): Dissonant Heritage: The Management of the Past as A Resource in Conflict. Chichester: John Wiley & Sons.</p><p></p><p>Zang,Xiaolin.(2019): Heritage Conversation in Chinese Colonial Port Cities.Utrecht University Doctoral Thesis.</p><p></p><p>TAIPEI navi :華山1914文創園区.https://www.taipeinavi.com/play/216/(最終閲覧日2020年7月31日).</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390004951543457664
  • NII論文ID
    130007949203
  • DOI
    10.14866/ajg.2020a.0_146
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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