波長6.05μmのMIR‐FEL照射による生体軟組織の術前予測的切除:ゼラチン切除

  • 岩本 由美子
    近畿大学大学院総合理工学研究科エレクトロニクス工学専攻
  • 部谷 学
    大阪大学大学院工学研究科自由電子レーザー研究施設
  • 橋新 裕一
    近畿大学大学院総合理工学研究科エレクトロニクス工学専攻
  • 粟津 邦男
    大阪大学大学院工学研究科自由電子レーザー研究施設
  • 堀池 寛
    大阪大学大学院工学研究科自由電子レーザー研究施設

書誌事項

タイトル別名
  • Predictable soft tissue cutting by an MIR-FEL tuned to 6.05 μm :
  • ゼラチン切除

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説明

レーザーによる軟組織の低熱損傷的切除にとって, 術前予測に基づく高精度な切除は本質的に重要である. 軟組織の主成分は80wt%の水と20wt%のタンパク質であり, 本研究では, その両者を同時に励起できる波長6.05 μmに着目する. 波長6.05 μmは水のOH変角振動モードとタンパク質のアミド結合Iの吸収ピーク波長に対応している. 我々は, 術前予測切除法としての6.05 μm光の有効性を実証するために, 波長可変の中赤外自由電子レーザー (MIR-FEL: Mid-Infrared Free Electron Laser) を用いてゼラチン切除実験を実施した. 80wt%の水を含む膨潤ゼラチンを生体軟組織の擬似モデルサンプルとして用いた. ゼラチン切除の波長依存性について明らかにするために, 入射エネルギー密度を3.6±0.3 J/cm2に固定し, MIR-FEL波長を5.6-6.7 μm内で変化させた. 照射時間は10秒あるいは100秒であった. レーザー照射中のゼラチンの形態変化を光学顕微鏡を用いて撮像した. これらの実験結果から次のことが明らかとなった. (1) 効率的なゼラチン切除は6.45 μm (タンパク質のアミド結合IIの吸収ピーク波長) ではなく, 6.05 μm近傍で観測された. このことから, 軟組織切除においてはその主成分である水を吸収体とすべきであるということが明らかとなった. (2) 照射波長6.05 μmにおいて, 膨潤ゼラチンは水の蒸散によって切除され, その切除深さは照射前の吸収係数によって説明できた. これは術前予測治療の可能性を示唆している. 加えて, レーザー照射, つまり, 照射中のゼラチンの含水量低下につれて, 熱変性層の顕著な減少が観測された. この減少は, 水の含有率の低下に伴い, 吸収体が水 (OH変角振動モード) からタンパク質 (アミド結合I) に移行することによって説明できる. これは過剰な熱損傷層形成の抑制機構として期待できる. このように, 6.05 μm光は術前予測可能な切除機構に加え, 熱損傷層などの副作用の抑制機構を備えた, 軟組織術前予測切除のレーザー波長として期待できる.

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参考文献 (63)*注記

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