教師による幼児の好奇心評定の関連要因
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- 稲垣 佳世子
- 和泉短期大学
書誌事項
- タイトル別名
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- CORRELATES OF CURIOSITY RATING BY TEACHERS IN YOUNG CHILDREN
- キョウシ ニヨル ヨウジ ノ コウキシン ヒョウテイ ノ カンレン ヨウイン
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説明
幼児・児童における特性としての好奇心を測定しようとする試みはいくつかあるが, そのうちで従来最も多く使用されてきたのは, Maw & Maw (1962) により開発された教師評定によるものであろう。これは, 好奇心の現われとしての4つの行動基準を教師に与え. このそれぞれに関して, 学級内の子どもの相対的な位置づけを求めるものである。Maw & Mawの方法では, 1 環境内の新しいもの, 不思議なもの, よくわからないものに対して, そちらの方へ近づいていったり, 探索したり, 手でいじったりして積極的に反応する。2 自分や自分の回りのことについてもっとよく知りたいという要求を示す。3 新しい経験を求めて自分の回りをよく調べる。4 新しい経験についてもっとよく知ろうと, 刺激をよく調べたり, 探索することをねばり強く行う一この4基準に関してその子どもに与えられた順位の合計が.好奇心の相対的な強さを示すものとされる。Mawらは. この教師評定による方法とクラスメートによる評定 (やり方は教師評定の場合とほぼ同一) とを併用して, 好奇心の高い子どもと低い子どもを選出し, その人格特性のちがいや・知的課題での成績 (performance) のちがいを検討している。その結果。評定により好奇心が高いとされた子どもと低いとされた子どもとの間に. それぞれ理論的に予測されるような反応の差異が首尾一貫して得られた, と彼らは報告している。知的課題での成績に関していえば, たとえば, 好奇心の高い子どもは'それが低い子どもに比べ, 文の意味を理解することや (Maw & Maw 1962), 文脈に適合しない箇所の気づきやすさにおいて (Maw & Maw 1972), すぐれている傾向が認められた。しかもそれは知能の効果を統制した条件下で認められた, という。Mawらのこうした一連の研究は, 特性としての好奇心を評定によって測定することの妥当性を支持する資料といえよう。しかしながら, 教師評定の妥当性に関しては否定的な資料も存在する。とくにそうした資料は, 教師評定による好奇心と, 知的課題を遂行する過程でみられる探索行動との関係を扱った研究から提出されているようにみえる。Coie (1974) は, 小学1, 3年生を用いて, 教師評定によって分類した好奇心の高い者と低い者とが, 好奇心をひきおこしやすい4つの場面のそれぞれで'実際にどんな探索行動を示すかを観察し, 両者の間に首尾一貫した有意な差異は見出されなかった, と報告している。さらにMinuchin (1971) によれば, 4才児において, 好奇心の教師評定と,新奇な事物の手による探索 (事物に対する好奇心とよばれることが多い) のていどとの問に有意な相関がみられたのは, 2人の教師のうちの一方においてのみであったという。<BR>低学年児童や幼児においては,言語的な反応に依拠したテストが使いにくいことを考慮すれば, 子どもの日常の広範囲にわたる行動を最もよく知っているはずの教師に評定を求めることは, 特性としての好奇心を測定する方法として利用価値の大きいものといえよう。しかし, 今みてきたように, 教師による好奇心の評定が真に子どもの好奇心を測定しているといえるのかは, 現在までのところ十分明らかにされているとはいいがたい。<BR>そこで本研究では, 2種の資料の分析を通して, 教師による好奇心の評定が'子どもの行動傾向のどんな側面を反映しているかを検討しようとした。まず幼稚園児にさまざまな課題を実験的に与えることにより, 教師による好奇心の評定が, 特定の場面での探索行動,およびそうした探索行動の所産と相互にどんな関係にあるかを検討した。理論的にはこれら3者は相互に相関が高いことが予想される。しかし, Coie, (1974) の研究で典型的に示されたように, 教師評定による好奇心と特定の場面での探索行動の観察を通して得られる好奇心との相関は低いという結果が見出される可能性もある。なおこの実験の際には, 従来, 教師評定と相関が高いといわれている (e. 9., Maw & Magoon, 1971;Maw & Maw, 1972; Coie, 1974) 知能ないし言語的能力との関係の分析も含めた。次いで'探索が要求される知的課題での所産の延長線上にあるものとして, 小学校1年次の学業成績を追跡調査においてとりあげ, さきの実験の分析から得られた知見をもとに, 幼稚園時代に得られた好奇心の指標との関連を検討した。<BR>なお本研究では, 特性としての好奇心 (つまり, 状態としての好奇心の生じやすさ) を扱うわけであるが. ここで状態としての好奇心とは, 個体の生存と直接かかわりのない情報を求める行動すなわち探索行動や認識行動 (cf. Berlyne, 1965) を誘発する動機づけである, と考える。大きくは, 拡散的好奇心 (diversive curiosity) と特殊的好奇心 (specific curiosity) とに区別されうる。前者は, 退屈ないし情報への飢えから生ずるもので, はっきりした方向性をもたず幅広く情報を求める好奇心である。後者は, 特定の情報 (とくに喚起された不調和の低減に寄与する情報) を求める好奇心である, と考える。(この2種の好奇心について, 詳しくは波多野・稲垣, 1971を参照。)
収録刊行物
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- The Japanese Journal of Educational Psychology
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The Japanese Journal of Educational Psychology 25 (2), 97-103, 1977
The Japanese Association of Educational Psychology
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680436547712
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- NII論文ID
- 110001892209
- 130004623376
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- NII書誌ID
- AN00345837
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- NDL書誌ID
- 1770080
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- ISSN
- 00215015
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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