結髪動作に関連する肩関節可動域について

説明

【はじめに】<BR> 肩関節疾患患者では,しばしば結髪,結帯動作などの日常生活動作が不自由となる.肩関節におけるこれらの3次元空間の動きに対し,肩関節の可動域制限を有する症例では,種々の代償を用い動作を遂行している.従ってこれらの動作獲得を目的とした場合には,代償運動を含めてどの運動方向への拡大が必要であるかを明確にする事が,効果的な治療につながると考える.そこで今回我々は,屈曲,外転,外旋の複合運動といわれている結髪動作に着目し,動作に影響を及ぼす肩関節の運動方向を明確にするため調査を行った.<BR>【対象と方法】<BR> 筋力低下や痛みではなく,肩関節周囲の軟部組織の拘縮が原因で可動域制限をきたしている結髪動作困難な11例(平均年齢60.9±6.7歳,男性6例,女性5例)を対象とした.<BR> 肩関節可動域は仰臥位にて,屈曲,外転,屈曲外転0°位での外旋(以下1st外旋),外転45°位での内旋,外旋(以下2nd内旋,外旋),屈曲90°位での内旋,外旋(以下3rd内旋,外旋)を測定した.結髪動作の指標として端座位にて上方から背部に手をまわし,脊柱に沿って母指をできるだけ下方に降ろした時の第7頚椎棘突起と母指先端の指椎間距離(C7- Thumb Distance;以下C7-TD)をメジャーにて計測した.以上の項目を結髪動作の困難時と動作が獲得できた可能時の2回計測した.横断的分析として,各症例の困難時と可能時を合わせた延べ22例で各運動方向の肩関節可動域とC7-TDとの関係と,さらに縦断的分析として,各運動方向の改善度とC7-TDの改善度との相関を調査した. <BR>【結果】<BR> 横断的分析:各運動方向への肩関節可動域とC7-TDとの相関関係は,屈曲(r=0.76,P<0.05),外転(r=0.48,P<0.05),3rd内旋(r=0.45,P<0.05)の順に有意な正の相関を認めた.<BR>縦断的分析:結髪動作困難時と可能時における可動域改善度とC7-TDの改善度との相関関係は,1st外旋(r=0.84,P<0.05),3rd外旋(r=0.80,P<0.05)の順で正の相関を認めた.<BR>【考察】<BR> 肩関節は複合関節であり,それゆえ肩甲上腕関節の可動域制限患者にとっては動作遂行のため,可動域制限をきたしにくい運動方向や,肩甲上腕関節以外の関節による代償運動が働くと予想される.拘縮を有する症例の結髪動作では健常者と比べ肘を前方に突き出し,屈曲運動で代償している事が観察される. 今回の横断的分析の結果で屈曲可動域とC7-TDとの関連が最も強かったことは,肩関節の外転制限に対し屈曲による代償運動が働いたことを示唆している.しかしながら縦断的分析では,外旋可動域の改善が結髪動作の改善に最も影響しており,肩関節前面の軟部組織の伸張性改善が効果的な結髪動作の改善につながるアプローチと考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2003 (0), C0754-C0754, 2004

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680539416832
  • NII論文ID
    130004578167
  • DOI
    10.14900/cjpt.2003.0.c0754.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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