TKA後の膝伸展不全に関する一考察

Description

【はじめに】人工膝関節全置換術(TKA)後の1症例に対して、術前、術後に筋電図学的評価を行い、術後の膝伸展不全に関する若干の知見を得たので報告する。<BR>【症例紹介】症例は81才の女性である。診断名は内側型変形性膝関節症で、術前のFTA は201°であった。膝関節のアライメントでは、大腿骨に対する脛骨の外側変位、外旋が著明であった。可動域は伸展-10°、屈曲135°であった。人工関節の使用機種はSCORPIOであった。手術は大腿骨側セメントレス、脛骨側セメント固定にて実施され、膝蓋骨は置換されなかった。脛骨内側部に骨移植が行われた為、荷重歩行は術後2週からの開始であった。<BR>【筋電図学的評価】NORAXON社製MyoSysyemを使用し、表面電極により筋活動を観察した。観察した筋は、縫工筋、大腿筋膜張筋、大腿二頭筋長頭、半腱様筋、大腿直筋、内側広筋、腓腹筋外側頭、腓腹筋内側頭であった。運動課題は、下垂坐位(膝関節80°屈曲位)からの膝関節伸展運動とした。運動回数は12回とし、最初と最後を除く10回の運動中の各筋の平均筋活動量について、最大随意収縮時の筋活動量(MVC)で正規化した値(%MVC)を用いて検討を行った。計測は、術前、術後3週、および膝伸展不全が完全消失した時点(術後4週)に行った。<BR>【結果・経過】術前の膝伸展運動時の筋活動を観察したところ、大腿四頭筋(大腿直筋・内側広筋)に対する縫工筋、大腿筋膜張筋の相対的な筋活動量の増加が観察された。術後3週時点で15°の膝伸展不全がみられた。筋電図では、内側広筋の筋活動低下は特にみられず、両筋の相対的な筋活動量の増加が残存していた。術後4週時点で膝伸展不全は完全に消失した。筋電図では、両筋の相対的な筋活動量の増加は減少していた。<BR>【考察】術後の膝伸展不全の原因として、関節水腫や腫脹による大腿四頭筋抑制がよくいわれている。しかし本症例では術後3週と4週で腫脹や水腫に変化を認めないことからその影響は考えにくく、膝伸展不全の原因として、膝伸展時の縫工筋、大腿筋膜張筋の過剰な筋活動の存在が考えられた。特に縫工筋は膝関節では屈曲作用しか有さず、大腿四頭筋による円滑な膝伸展作用を妨げることが容易に推測される。術前から観察されていたことから、術前の下肢アライメントの影響が考えられた。本症例の膝関節アライメントでは大腿骨に対する脛骨の外旋が著明なことから、縫工筋ではその脛骨付着部が前方へ変位し、本来とは違う伸展方向の作用を生み出していた可能性が推察された。その影響が、手術による急激なアライメントの正常化後も残存しているのではないかと考えられる。今回の症例を通して、縫工筋、大腿筋膜張筋の活動を抑制することが、術後の膝伸展不全の早期改善につながる可能性が考えられた。今後、症例数を増やして詳細な検討を行っていきたいと考えている。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680539760640
  • NII Article ID
    130004578235
  • DOI
    10.14900/cjpt.2003.0.c0938.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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