足関節底屈筋における最大随意収縮後の筋活動量変化
この論文をさがす
説明
【目的】<BR>神経を電気刺激すると興奮が筋に伝わり,筋収縮が起こることで関節トルクが発生する.この関節トルクは最大随意収縮(MVC)後に増強することが知られており,収縮後増強(postactivation potentiation;PAP)と呼ばれてきた.しかし,MVC前後で随意収縮の筋活動に関してはどう変化するか明らかになっていない.そこで本研究では,MVC前後での随意収縮における筋活動量の変化を明らかにすることを目的とした.<BR>【方法】<BR>被験者は年齢31.7±7.7歳の健常な男性8人,女性7人で,身長は165.5±6.6cm,体重は56.0±7.7kgであった.下肢に整形外科的,神経学的既往のある者は除外した.足関節底屈時の筋活動量は筋電図で測定し,日本光電社製ニューロパックMEB2200(サンプリング周波数1kHz,周波数帯域10-5000Hz)を用いた.測定筋は右腓腹筋外側頭とヒラメ筋とした.また,足関節底屈時の筋出力の測定には川崎重工業社製マイオレットRZ-450を用いた.測定肢位は背もたれを30°に設定した椅子上の長座位とし,右膝関節は伸展0°位とした.足部をベルクロテープで固定し,マイオレットの機械軸と右足関節軸を一致させた.まずはじめに右足関節底屈MVCを10秒間発揮させた.15分間以上の休憩を挟んだ後,MVCの20%の強度で足関節底屈(20%MVC)を行い,次に10秒間のMVCを発揮,その30秒後に再度20%MVCを行った.筋電図は足関節底屈の3秒間を測定し,そのうち中間の1秒間を測定値として用いた.測定した生波形を全波整流後,50msのRoot Mean Squere(RMS)値を求め,各筋のMVC時のRMS値を100%として正規化した値をデータとして用いた. 腓腹筋外側頭,ヒラメ筋それぞれの筋電図をMVC前後で比較した.統計は対応のあるt検定を行い,有意水準は0.05未満とした.<BR>【説明と同意】<BR>被験者には研究の手順と目的に関して説明し,同意が得られた.<BR>【結果】<BR>MVCの筋出力は11.6±4.1kgmであった.20%MVCの筋活動量は腓腹筋でMVC前13.6±7.3%,MVC後12.0±7.8%と有意に減少(p<0.01)した.一方ヒラメ筋ではMVC前21.4±7.4%,MVC後22.1±8.5%で有意な変化はみとめられなかった(p=0.25). <BR>【考察】<BR>足関節底屈MVC前後に20%MVCの筋電図を測定した結果,筋活動量は腓腹筋外側頭でMVC後有意に減少した.同じ強度の筋出力を発揮するのに筋活動量が減少していることから,腓腹筋外側頭ではMVC後筋出力を発揮しやすい状況になると考えられる.この結果は,電気刺激による単収縮ピークトルクの増強であるPAPに関する過去の報告とも一致している.また,ヒラメ筋でMVC前後に筋電図振幅の変化がみとめられなかったことに関しては,PAPの過去の研究において速筋と遅筋の違いがPAPに関連するといわれていることから,今回の随意収縮の場合においても筋線維タイプの違いが一つの要因となった可能性が考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】今回の研究では,同じ筋出力を発揮するのに要する筋活動量がMVC後に減少し,MVC後に随意収縮の筋出力が発揮しやすい状況になることが示唆された.MVC後に随意収縮の筋出力が上がるのであれば,臨床場面においても対象となる筋の最大収縮を行わせた後,一時的により大きい筋出力を発揮できる可能性がある.理学療法士は筋力測定等の検査に加え,動作分析によって対象者に適切な運動療法を選択することが多い.筋に最大収縮を行わせた前後の動作の違いを観察することによって,どの筋をトレーニングするかを選択していく一助となるかもしれない.
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI1052-AbPI1052, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680548345088
-
- NII論文ID
- 130005016467
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可