理学療法介入Balance Evaluation Systems Testの有用性

  • 宮田 一弘
    日高リハビリテーション病院リハビリテーションセンター
  • 篠原 智行
    日高リハビリテーション病院リハビリテーションセンター
  • 平石 武士
    日高リハビリテーション病院リハビリテーションセンター

書誌事項

タイトル別名
  • 小脳梗塞一症例による検討

説明

【目的】<BR> Balance Evaluation Systems Test(BESTest)は2009年にHorakらによって考案されたバランス検査である。この検査はバランスをBiomechanical Constraints(BC)、Stability Limits/Verticality(SLV)、Anticipatory Postural Adjustments(APA)、Postural Responses(PR)、Sensory Orientation(SO)、Stability in Gait(SG)という6つのシステムとして捉えている。BESTestは米国では信頼性と妥当性は既に検討されている。しかし、本邦における使用報告は少ない。そこで、本研究の目的は臨床においてBESTestをどのように介入に反映させたのか報告しその有用性を検討することである。<BR>【方法】<BR> 対象は右小脳梗塞により右側の運動失調を呈した73歳女性、既往歴として20年前より糖尿病を発症している。急性期病院から発症1ヶ月で当院へ転院し、4ヶ月にて自宅退院に至った。転院当初は嘔気・めまいにより臥位や座位での練習が中心であった。発症2ヶ月で嘔気が落ち着き、手離し歩行監視レベルになったところで検査を実施した。検査内容は運動失調の検査としてInternational Cooperative Ataxia Rating Scale(ICARS)、バランスの検査としてBESTest・Berg Balance Scale(BBS)であり、各検査を1ヶ月間隔で3度実施し各時点での歩行自立度を記載した。2ヶ月目の検査結果よりAPA、PR、SGが主な問題と考え、その向上を目的に閉眼での立位保持練習、フォームラバー上での起立着座練習、リーチ動作練習、方向転換を多く含む歩行練習を選択し介入した。3ヶ月目の検査結果では、全体的なバランスの能力の改善は見られたがPRには変化が認められなかったため、中脳レベルのバランス反応促通を主目標に介入した。選択した課題は、徒手抵抗によるステップ反応誘発練習、ステップしながらのボール投げ練習、外乱刺激に抗する歩行練習などである。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には本研究の趣旨を説明し書面にて同意署名を得た。<BR>【結果】<BR> 発症2ヶ月目は、ICARS:23/100点、BESTest:54.6%(BC:86.7%、SLV:81.0%、APA:44.4%、PR:55.6%、SO:80.0%、SG:52.4%)、BBS:22/56点、病棟内サークル歩行自立であった。3ヶ月目は、ICARS:9/100点、BESTest:84.2%(BC:100.0%、SLV:81.0%、APA:83.3%、PR:55.6%、SO:93.3%、SG:95.2%)、BBS:49/56点、院内サークル歩行自立・自室内手離し歩行自立であった。SLV、PRでは変化を認めなかった。BBSは初回満点だった項目を除き全ての項目で1~4点の点数増加が認められた。4ヶ月目は、ICARS:6/100点、BESTest:88.0%(BC:100.0%、SLV:85.7%、APA:83.3%、PR:77.8%、SO:86.7%、SG:95.2%)、BBS:51/56点、病棟内手離し歩行自立であった。BESTestは点数の増加した項目(SLV、PR)、減少した項目(SO)が認められた。<BR>【考察】<BR> 3ヶ月目の検査結果よりBESTestで変化のない項目が見られたため、その項目に問題点を絞って集中的にアプローチし、改善を得ることができた。BESTestの特徴は、対象者の自発的な動きなどのバランスに加えて、被験者が徒手抵抗を加え反応を誘発する評価が含まれる点である。APA・PRの項目にて立ち直り反応・平衡反応を詳細に評価でき、それが中枢神経系の階層性を反映させている。そのためBBSよりもバランス評価としての感度が高いと思われた。しかし、BESTestは検査項目が27項目と多く評価に時間を要する。また、歩行不能な対象では、SGなどで天井効果が見られ易いという問題点がある。本研究は一症例の報告である上BESTestを用いずに介入を行った対象を設定していないことから、BESTestによる介入のアセスメントが有用であったかどうかには検証の余地が残る。今後は、症例数を重ね適応疾患を明確にすることやBBS以外の検査とも比較し介入展開への有用性、基準関連妥当性を検討していきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> BESTestは今回の症例においてBBSでは評価しきれなかったバランスの一面を客観的に評価でき、更に介入への一助を担えることが示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P2151-B4P2151, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548379776
  • NII論文ID
    130004582148
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p2151.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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