超音波診断装置における剪断波エラストグラフィ機能を用いた筋硬度の評価 筋の伸張性の評価指標として剪断波エラストグラフィによる筋硬度評価は有用である
説明
【はじめに、目的】一般的に筋の伸張の程度や柔軟性の評価として関節可動域を測定することが多いが,対象者の痛みに対する慣れなどの心理的な影響があるため,関節を他動的に動かした時に生じる受動的トルクを測定する方法が推奨されている.受動的トルクは筋が伸張されると大きくなり,スタティックストレッチング(SS)介入後に減少することが報告されており,受動的トルクの変化は筋の伸張性や柔軟性を反映していると考えられている.しかし,この受動的トルクが測定できる関節は限られており,さらに個別の筋の伸張の程度や柔軟性の変化を詳細に評価することはできないという問題がある.近年,個別の筋の硬さを定量的に評価できる方法として,筋内に剪断応力を誘発することで筋硬度を測定する剪断波エラストグラフィが開発された.しかし,この剪断波エラストグラフィで評価した筋硬度が筋の伸張性や柔軟性を反映しているのかどうかは明らかではない.そこで本研究は剪断波エラストグラフィに着目し,他動的運動時とSS介入後の筋硬度の変化を評価し,受動的トルクの変化と比較することで,筋の伸張性や柔軟性の評価指標として剪断波エラストグラフィによる筋硬度評価が有用であるかを検討することを目的とした.【方法】対象は整形外科的疾患を有さない健常男性15 名(年齢21.9 ± 1.1 歳)とした.対象筋は左側の腓腹筋とし,他動的に足関節背屈させた時の受動的トルクと筋硬度を測定した.筋硬度は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製 Aixplorer)の剪断波エラストグラフィ機能を用いて測定した.剪断波エラストグラフィにより測定される硬度は剪断波が組織を伝播する速度から算出するため,硬い組織ほど伝播速度が速くなり,筋硬度値(kPa)は大きくなる.対象者を腹臥位・膝関節完全伸展位で足関節を等速性筋力測定装置(川崎重工業社製MYORET RZ-450)のフットプレートに固定し,足関節背屈0°から背屈30°位まで他動的に足関節背屈させた時に底屈方向に生じる受動的トルクと筋硬度を10°毎に測定した.SSは上記の測定と同様の装置を用い,最大背屈角度で30 秒間保持を行い,底屈0°まで戻すというSSを4 セット,計2 分間施行した.SS介入前後における背屈30°の受動的トルクおよび筋硬度を筋の柔軟性の変化の指標として測定した.筋の伸張の程度を分析するため,背屈角度を変化させた時の受動的トルクおよび筋硬度の変化をScheffe法における多重比較を用いて検討した.また受動的トルクと筋硬度の変化の関連性についてSpearmanの順位相関を用いて検討した.さらに SS介入前後の受動的トルクと筋硬度の変化についてWilcoxon検定を用いて検討した.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を十分に説明し,研究に参加することの同意を得た.【結果】受動的トルクは足関節背屈0°で2.8 ± 2.2Nm,背屈10°で7.4 ± 3.0Nm,背屈20°で14.9 ± 4.2Nm,背屈30°で27.1 ± 6.8Nm,筋硬度は背屈0°で23.1±5.5kPa,背屈10°で37.6±12.8kPa,背屈20°で71.5±28.0kPa,背屈30°で127.6±46.8kPaであった.多重比較の結果,受動的トルクと筋硬度ともに背屈0°と比較して背屈20°と30°,背屈10°と比較して背屈30°が有意に高値を示した.相関分析の結果,受動的トルクと筋硬度との間には有意な正の相関が認められた(r=0.84,p<0.01)。SS介入後の受動的トルクは22.3 ± 6.4Nm,筋硬度は113.2 ± 41.8kPaであり,両項目ともSS介入前と比較して介入後で有意に低値を示し,SSの即時効果が確認された.介入後の低下率は受動的トルクで−16.1 ± 23.5%,筋硬度で−11.6 ± 18.7%であり,有意な差は認められなかった.【考察】背屈角度の増加に伴う腓腹筋の伸張の程度を受動的トルクおよび筋硬度を指標として検討した結果,背屈角度の違いによる受動トルクと筋硬度の変化は同様の傾向を示し,さらに両者の変化には関連性が認められた.また,SS介入後に受動的トルクと筋硬度はともに減少し,これらの減少率に違いがないことが明らかとなった.すなわち,他動運動に伴う筋の伸張性の変化,SS介入後の筋の柔軟性の変化ともに,筋硬度は受動トルクと同様の結果を示した.これらの結果より,剪断波エラストグラフィにより測定された筋硬度は筋の伸張性の程度や筋の柔軟性を評価することができる指標であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】剪断波エラストグラフィは個々の筋ごとに,あるいは部位ごとに評価することが可能であり,今後,筋の伸張性や柔軟性を評価する新たな指標として理学療法分野における応用が期待できる.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48101010-48101010, 2013
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680551319040
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- NII論文ID
- 130004585369
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可