立ち上がり動作の速度の違いが下肢の筋活動に及ぼす影響

DOI
  • 西野 和成
    京都大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 南角 学
    京都大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 西川 徹
    京都大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 柿木 良介
    京都大学医学部附属病院リハビリテーション部

抄録

【はじめに、目的】立ち上がり動作は,基本動作を構成する要素の1 つであり,日常生活において繰り返し行われている頻度の高い動作であり,日常生活の自立には立ち上がり動作の獲得は重要となる.また,下肢機能の向上を図るための荷重位での筋力トレーニングとして,立ち上がり練習を取り入れることがある.臨床場面では,対象となる患者の下肢筋力や運動機能に応じて,立ち上がり動作時の基底面の大きさ,座面の高さ,動作の速度などの条件を変え,動作における下肢への負荷量や難易度を調整しながら筋力トレーニング実施している.このため,立ち上がり動作を筋力トレーニングとして取り入れていくには,立ち上がり動作時での条件の違いが下肢の筋活動に与える影響を把握しておくことが重要となる.立ち上がり動作と下肢の筋活動に関する先行研究については,立ち上がり動作時の開始肢位や坐面の高さが筋活動に及ぼす影響を検討した報告があるが,立ち上がり動作の速度と下肢の筋活動の関連性を検討した報告は見当たらない.そこで,本研究の目的は,立ち上がり動作時における動作速度の違いが下肢の筋活動に及ぼす影響について検討することである.【方法】対象は健常男性14 名(年齢:25.4 ± 3.4 歳,BMI:22.9 ± 5.1kg/m2)とした.動作課題は,45cmの座面の高さからの立ち上がり動作とし,立ち上がり動作の速度を1 秒,2 秒,3 秒の3 つの条件にて行った.立ち上がり動作の速度を一定とするためにメトロノームを用いて行った.筋活動の測定に関しては,右下肢に電極を貼付し,測定筋は大殿筋,大腿四頭筋の内側広筋,前脛骨筋,内側腓腹筋とした.測定には,表面筋電図計DataLINK(Biometric社製,DLK800 型)と電気角度計を用いた.筋電図の波形処理は,電気角度計のデータから立ち上がり動作と着座動作の3 回分の筋活動を二乗平均平方根により平滑化し サンプリングデータの平均値を求めた.さらに,各筋の3 秒間の最大等尺性収縮(以下,MVC)時の筋活動を100%として振幅を正規化し,%MVCを算出した.統計学的分析には,動作の速度の違いによる比較にはFriedmanの検定およびWilcoxonの符号付順位和検定を補正した多重比較法を用い,統計学的有意基準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,参加の同意を得た.【結果】立ち上がり動作時の大殿筋の筋活動は,1 秒16.9 ± 10.2%,2 秒13.2 ± 7.4%,3 秒11.1 ± 7.1%であり, 3 秒での立ち上がりは1 秒と2 秒と比較して有意に低い値を示した.立ち上がり動作時の内側広筋の筋活動は1 秒52.1 ± 38.2%,2 秒34.0 ± 26.9%,3 秒26.1 ± 19.8%であり,1 秒での立ち上がりは2 秒と3 秒と比較して有意に高い値を示した.立ち上がり動作時の前脛骨筋の筋活動は1 秒16.7 ± 6.4%,2 秒11.8 ± 12.8%,3 秒12.5 ± 11.3%であり,1 秒での立ち上がりは2 秒と3 秒と比較して有意に高い値を示した.立ち上がり動作時の内側腓腹筋の筋活動は,動作速度間で有意差を認めなかった.また,着座動作時の大殿筋の筋活動は,1 秒での立ち上がりは2 秒と3 秒と比較して有意に高い値を示した.一方,着座時の内側広筋の筋活動,前脛骨筋,内側腓腹筋の筋活動については,動作速度間で有意差を認めなかった.【考察】立ち上がり時の大殿筋や大腿四頭筋は,それぞれ股関節や膝関節の屈曲・伸展運動を制御しながら身体全体の前後と上下方向への重心移動に関わる.また,立ち上がり時の前脛骨筋は,殿部離床の直前に足関節の固定と足部への重心位置の移動に重要な役割を果たすと報告されている.本研究においては,立ち上がりの動作速度が速くなることで,身体全体の前後と上下方向への重心移動の制御とそれに伴う足関節の固定や足部への重心移動の調節が必要となったために,それぞれの筋で高い筋活動が認められたと考えられた.今後の課題として,立ち上がりに股・膝関節の安定性に重要とされている大腿直筋やハムストリングスなどの二関節筋の筋活動に関しても,検討していく必要性があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,立ち上がり時の動作速度を変化させることで下肢の筋活動に影響を及ぼすことが明らかとなり,特に立ち上がり動作時の速度を速くすることで高い筋活動が得られることが示された.これらの結果は,荷重位での筋力トレーニングとして立ち上がり動作を実施する際の負荷量の決定に根拠となるデータであり,理学療法研究として意義のあると思われた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48102033-48102033, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報

  • CRID
    1390282680552827520
  • NII論文ID
    130004586117
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48102033.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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