健常及び投球障害肩を呈する野球選手の原テスト及び下肢・体幹機能の特性

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  • ―投球障害肩の予防へ向けての考察―

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抄録

【はじめに,目的】スポーツ障害予防の観点から,競技による身体特性を知ることは重要である。本研究の目的は健常野球選手と肩関節の使用機会の少ない競技者であるサッカー選手において,原テスト及び下肢・体幹機能の理学所見を比較し,野球選手の身体特性を明らかにすることである。またその身体特性を踏まえ投球障害肩の症状を呈する野球選手と健常野球選手を比較し,投球障害肩の症状を呈する野球選手に特徴的な所見を明らかにすることで,その治療や予防に繋げることである。【方法】対象を投球障害肩を示す野球選手12名(P群),本研究に影響する既往のない野球選手11名(B群)とサッカー選手10名(S群)とし,原テスト11項目,下肢・体幹機能4項目を検査した。原テストとは,scapula spine distance(SSD),下垂位外旋筋力(ISP),下垂位内旋筋力(SSC),初期外転筋力(SSP),impingement test(Impinge),combined abduction test(CAT),horizontal flexion test(HFT),elbow extension test(ET),elbow push test(EPT),関節loosening test(loose),hyper external rotation test(HERT)のことであり,下肢・体幹機能4項目とはstraight leg raising angle(SLR),指床間距離(FFD),踵臀間距離(HBD),股関節内旋角度(HIR)である。なお本研究ではHERTを,同様に肩関節過外旋をさせる手技であるcrank test(crank)で代用した。またISP,SSC,SSP,ET,EPTは,ハンドヘルドダイナモメーター(MICRO FET2,Hoggan Health社製)を,CAT,HFT,SLR,HIRは角度計を用いて計測した。筋力の項目は非投球側に比べ投球側で10N以上の弱化,CATとHFTは非投球側に比べ投球側で10°以上の可動域制限があれば陽性とし,その他は原らの基準に従い陽性の判断をした。各項目陽性率,合計陽性項目数,各測定での投球側値,非投球側値の群間の差の検討と,同群内での各測定の投球側値と非投球側値の差を検討した。統計処理は,対応のあるt検定,Wilcoxonの検定,一元配置分散分析,Tukey-Kramer,Steel-Dwassの方法を行い,危険率5%未満を有意,10%未満を傾向ありと判断した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の目的と趣旨を説明した上で同意の得られた者を本研究対象とした。本研究は所属施設倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】S群,B群間でHBDの投球側値に有意差を認めた(S群>B群)。B群,P群間では原テスト合計陽性項目数(P群>B群),crankの陽性率(P群>B群),Impingeの陽性率(P群>B群)で有意差を認めた。また,同群内の投球側,非投球側値の差ではS群のHFT(非投>投),B群のCAT(非投>投),P群のIR(非投>投),CAT(非投>投),HFT(非投>投)にて有意差を認め,B群のSLR(非投>投),P群のISP(非投>投),SLR(非投>投)にて傾向を認めた。【考察】サッカー選手に比べ野球選手の投球側におけるHBDの距離は有意に小さく,SLR角度は小さい傾向にあった。つまり,野球選手は非投球側に比べ投球側下肢の大腿四頭筋が柔軟でハムストリングは短縮しているという特性が示唆された。また,野球選手の投球側においてCATの角度が有意に小さいことから,投球側のCATの可動域制限は野球選手の特性であり,投球側肩関節の関節包の拘縮,腱板の筋緊張や筋拘縮,innerとouter muscleの筋バランス異常等が疑われた。一方,HFTではサッカー選手にも投球側の可動域制限を認めた。つまりこの現象は野球選手の特性ではなく誰にでも起こり得る利き腕側の特性であることが考えられた。投球障害群において,投球側のISPは弱化傾向にあり,IRは有意に弱化していた。すなわちrotator cuffの不均衡により前後のinstabilityが生じ,internal impingement等を惹起している可能性が示唆された。野球選手と投球障害群との比較から,野球選手の中でも投球障害群は原テスト合計陽性項目数が多くなること,またその中でもcrank,Impingeが投球障害肩に特徴的な検査であるといえる。原らはImpingeとHERTを含む9項目以上が陰性であることを投球開始基準としており,大沢らは原テストの項目のうち,SSP,Impinge,CAT,ET,EPT,HERTが投球障害群で有意に陽性率が高かったと報告している。今回の結果は原らがHERT(crank),Impingeを重要視していることと大沢らの報告の一部を裏付けるものとなった。しかしSSP,CAT,ET,EPTの陽性率に差を認めなかったことが大沢らの報告と異なった。これは,今回我々が筋力値を定量化して陽性の判断をしたために生じた相違と考えられる。このことから原テストの定性的評価と定量的評価の場合の陽性検出率の差異が考えられた。【理学療法学研究としての意義】野球選手及び投球障害群の原テスト,下肢・体幹機能における特性を明らかにしたことで,今後,検査等で野球選手の身体異常を判断する際の一助となると考える。

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