傾向スコア・マッチング法を用いた買収による生産性改善効果の検証

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抄録

従来,日本企業は,内部で保有する経営資源の質を高めることで企業価値向上を試みてきたが,新興国の台頭などによりグローバル市場における競合が以前にも増して激化したことを背景に,近年は,買収によって外部から経営資源を獲得し,より効率的に企業価値向上を目指す企業が増えている.一方,買収は大規模投資であり,株主などのステークホルダーは公表財務情報を通して観測される買収成果が収益性や生産性に適切に反映されることを望む.本研究では,買収が企業の生産性に与える影響に特に焦点を当て,公表財務情報を用いて,買収実施企業の生産性改善効果を分析することを目的とする.分析においては,分析対象企業が有する成長性をコントロールするため,傾向スコア・マッチング法(Propensity Score Matching; PSM)により,分析期間において買収を実施した企業群(厳密には,買収に関する会計処理を行った企業群)と同期間に買収を実施していない(あるいは対象になっていない)企業群を比較した際の平均的処置効果(Average Treatment Effect; ATE)を用いた検定を実施する.ATEについては,買収実施前後の生産性財務指標に関する差分の差分(Difference-in-difference; DD)分析を適用し,買収非実施企業に対する買収実施企業の買収実施前後の生産性財務指標における差異を抽出する.分析の結果,全買収実施サンプルを対象としたATEに関しては,労働生産性と資本生産性のいずれにおいても買収の生産性改善効果は示されないものとなる.一方,買収実施前に負の内部留保率を示していた買収実施企業については,資本生産性において有意で継続的な生産性改善効果が得られる.このことは,公表財務情報を通して観測される買収成果が,資本生産性に適切に反映されていることを示す.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763108684672
  • NII論文ID
    130007634176
  • DOI
    10.32212/jafee.17.0_67
  • ISSN
    24344702
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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