下垂足に対しAFOの使用により歩行機能の改善を認めた大腿骨骨幹部骨折術後の一症例

書誌事項

タイトル別名
  • ‐AFOの違いが歩行機能に与える効果の運動学的検証‐

説明

<p>【症例紹介】</p><p> 20歳代男性(身長177.0cm、体重62.0kg)、職業は学校教諭。自動車運転中の事故で右大腿骨骨幹部骨折、右膝蓋骨開放骨折を受傷。第11病日に右大腿骨髄内釘固定術施行、第17病日に膝蓋骨にひまわり法を施行し、手術以降右下肢に下垂足が生じた。第53病日に2/3荷重となり、第64病日に当センター回復期リハ病棟へ入棟。入院時、荷重制限下での両松葉杖歩行で下垂足による鶏歩が観察されていたため、装具療法が適応となり数種類の短下肢装具(以下、AFO)を試行した。第85病日に全荷重となり、第105病日に底屈制動付き短下肢装具(以下、油圧式AFO)を作成、第117病日に退院となった。退院時は杖なし歩行が可能であったが、歩行時の右股関節、膝関節周囲の疼痛とデュシェンヌ現象を認め、鶏歩も観察された。一方、油圧式AFO装着下での歩行では裸足歩行と比べ疼痛の軽減と歩きやすさの実感があり、AFOの種類によっても歩容と疼痛に変化が見られた症例である。今回は、油圧式AFOの装着により歩容の改善と疼痛の軽減が認められたことから、三次元動作解析装置を使用して詳細な運動学的解析を行うことで、本症例に生じていた現象を把握し今後の下垂足歩行に対する装具適応の一助にすることを目的に報告する。</p><p>【評価とリーズニング】</p><p> 評価・計測は第100病日に実施した。理学療法所見は、右足関節底屈30度のROM制限があり、右下肢筋力は股関節・膝関節がMMT4~5、足関節背屈は2であった。歩行は、右立脚中期(以下、Mst)で股関節外側部と膝周囲に、右立脚後期から遊脚期に移行する際には股関節前内側部に疼痛が出現し、Numerical Rating Scale(以下NRS)は8/10であった。観察上、裸足時はイニシャルコンタクト(以下、IC)時に下垂足の影響で踵接地(以下、HC)が消失しデュシェンヌ現象が観察された。裸足及び後方支柱型AFO(以下、一体型AFO)装着時と比較し、油圧式AFOでより歩容の改善が認められた。</p><p>【介入内容および結果】</p><p> 計測条件は、裸足と一体型AFO、油圧式AFO 装着下での至適歩行とした。計測は、三次元動作解析装置(VICON社、赤外線カメラ8台)と床反力計(AMTI社製)6枚を使用し、サンプリング周波数は100Hzとした。身体標点は、頭部、上下肢、体幹に45点の反射マーカーを貼付し、3条件で練習後3回計測した。解析区間は右側のICから同側の次のICまでの1 歩行周期とし、歩行速度、歩幅、重複歩距離、両側股関節、膝関節、足関節の各関節角度と骨盤、胸郭の傾斜角度を算出し、条件間で比較した。</p><p> 歩行解析による関節角度は、IC時右股関節屈曲(以下、単位°、裸足;19.4、一体型AFO;16.1、油圧式AFO;20.2)、右足関節背屈(裸足;-13.0、一体型AFO;-11.9、油圧式AFO;-8.0)、遊脚期の右股関節屈曲(裸足;34.7、一体型AFO;31.6、油圧式AFO;27.7)、右足関節背屈(裸足;-9.3、一体型AFO;-8.5、油圧式AFO;-7.5)であった。右Mstの骨盤傾斜角度(裸足;5.1、一体型AFO;5.4、油圧式AFO;4.3)、胸郭傾斜角度(裸足;3.6、一体型AFO;4.2、油圧式AFO;3.3)であった(+;右傾斜、-;左傾斜)。以上より、油圧式AFOでは右遊脚期での右股関節屈曲運動が少なく、足関節底屈角度が小さい状態でICが可能となり、より前方でHCが確認された。またデュシェンヌ現象の改善も認められた。歩行速度(単位m/min、裸足;73.7、一体型AFO;71.9、油圧式AFO;74.4)と重複歩距離(単位m、裸足;1.29、一体型AFO;1.28、油圧式AFO;1.33)にはわずかに変化が認められ、自覚的な歩きやすさは3条件の中で油圧式AFOが歩きやすく、疼痛はNRS4~6/10であった。</p><p>【結論】</p><p> 本人の自覚的な歩きやすさと疼痛の軽減は、計測指標と一致していた。本症例に対し、油圧式AFOは、ICでのHCとその後の円滑な足関節底屈運動を実現し、理想とされる立脚初期の運動に有効な装具であった。また、右遊脚期の足部背屈補助機構は爪先のクリアランス確保を補償し、股関節屈曲による下肢の持ち挙げを小さくした結果、効率的な下肢の振り出しに反映していると分析した。以上の結果から、末梢神経障害等による足部の背屈運動障害に対し、立脚初期のHCの制御と同時に遊脚下肢の制御に装具機構が適応し、足部機能の補償が全身的な歩行姿勢の改善と疼痛軽減に寄与したものと考察し、今後の立脚、遊脚の関係から歩行機能や装具を検討し、運動障害に対する機能向上を図る一助としていきたい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>当センター倫理委員会の承認を得た後、対象者には書面と口頭にて研究内容について説明を行い、同意を得て実施した。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-133_1-H2-133_1, 2019

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763134554112
  • NII論文ID
    130007693647
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h2-133_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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