胎生期X線被曝によるマウスの晩発性水頭症の成立について

DOI
  • 亀山 義郎
    名古屋大学環境医学研究所病理・胎生部門
  • 星野 清
    名古屋大学環境医学研究所病理・胎生部門

書誌事項

タイトル別名
  • POSTNATAL MANIFESTATION OF HYDROCEPHALUS IN MICE CAUSED BY PRENATAL X-RADIATION

この論文をさがす

抄録

マウス,ラットの胎仔の大脳が器官形成期のみでなく胎児期より新生児期にかけて高い放射感受性をもち,150R以上の胎児期のX線被曝によって小頭症が成立することはすでに知られている.かような小頭症をもたらす胎仔神経組織の初期変化は多くの研究者によって明かにされているが,成立した小頭症の生後の経過と晩発性脳発達障害についてはあまり検討されていない.マウスの胎生12〜17日にX線200Rを照射すると,大脳実質の広範な損傷により被曝した胎令にかかわらず,胎生末期の胎仔には小頭症あるいは小水頭症が成立した.これらの被曝仔の50〜80%は出生直後に死亡したが,生き残ったものの生後の経過は被曝胎令によって差異が一思められた.すなわち胎生12日に被曝した仔では脳外套の発達障害がつよく小水頭症のまま成体に達するものが大半を占めた.胎生14日およびそれ以降の胎児期に被曝した仔では出生時広くなっていた側脳室は次第にせまくなり補空性水頭の状態は消失するが,小頭症白体は成体に至るまで変化はなかった.ところが胎生13日に被曝した仔では出生時は小頭症を示したが,生後7〜10日に側脳室の急速な拡大と大脳外套の非薄化が始まり,日令とともに進行性に増強し生後3週以降には大半の例が典型的な内水頭症に発展した.なおこれらの例には脳室系の閉鎖,狭窄はなく,第3脳室は側脳室と同様に強い拡大がみられたが,第4脳室の拡大は軽度であった.かような出生後に発現する水頭症は胎生12日被曝にもみられたが程度は軽く,また胎生14日被曝仔にも少数みられたが,胎生15日以後の処理には全く成立せず,胎生マウス,ラットの胎仔の大脳が器官形成期のみでなく胎児期より新生児期にかけて高い放射感受性をもち,150R以上の胎児期のX線被曝によって小頭症が成立することはすでに知られている.かような小頭症をもたらす胎仔神経組織の初期変化は多くの研究者によって明かにされているが,成立した小頭症の生後の経過と晩発性脳発達障害についてはあまり検討されていない.マウスの胎生12〜17日にX線200Rを照射すると,大脳実質の広範な損傷により被曝した胎令にかかわらず,胎生末期の胎仔には小頭症あるいは小水頭症が成立した.これらの被曝仔の50〜80%は出生直後に死亡したが,生き残ったものの生後の経過は被曝胎令によって差異が一思められた.すなわち胎生12日に被曝した仔では脳外套の発達障害がつよく小水頭症のまま成体に達するものが大半を占めた.胎生14口およびそれ以降の胎児期に被曝した仔では出生時広くなっていた側脳室は次第にせまくなり補空性水頭の状態は消失するが,小頭症白体は成体に至るまで変化はなかった.ところが胎生13日に被曝した仔では出生時は小頭症を示したが,生後7〜10日に側脳室の急速な拡大と大脳外套の非薄化が始まり,日令とともに進行性に増強し生後3週以降には大半の例が典型的な内水頭症に発展した.なおこれらの例には脳室系の閉鎖,狭窄はなく,第3脳室は側脳室と同様に強い拡大がみられたが,第4脳室の拡大は軽度であった.かような出生後に発現する水頭症は胎生12日被曝にもみられたが程度は軽く,また胎生14日被曝仔にも少数みられたが,胎生15日以後の処理には全く成立せず,胎生12〜17日処理群中では胎生13日処理群に集中する傾向が明瞭であった.水頭症の多発する胎生13日被曝仔の大脳の組織化学的所見のうち,能室の大脳に先だってあらわれる注目すべき変化は大脳外套の上衣下白質の静脈系の血行障害とそれに引きつづく能実室の二次的退行変性の像であった.まづ,能梁放線の側能室外側角に近い部位に白質の鬱血と拡大した静脈の破〓による出欠があらわれ,ついでに同部位を中心に側能室上衣下の線状出欠,上衣層の脱落がみられた.生後1週間前後になると白室内に出血を伴う組織欠損があらわれ,能室の拡大開始とともに欠損部は能室に連絡し憩室状をなす例が多かった.さらに上衣下白質より皮質深層におよぶ海綿状変性を見る例もあった.側能室脈絡叢には能外套と同様に側能室内の拡大前に強い鬱血がみられた.なお大脳外套の表在性の血管および髄膜血管には鬱血は著明ではなく,出血はみとめられなかった.これらの血行障害と能実質の退行変性は皮質構築の攪乱や灰白質異所形成のような大脳外套の組織発生障害のつよい被曝仔につよく,組織構築異常の軽度の個体では血行障害も軽度であった.異常の所見はX線小頭症に出生後発現する大脳外套の血行障害が水頭症の成立に主要な役割をもつことを示唆する.この血行障害は胎生期のX線被曝による能実質の損傷と外套の組織構築の攪乱のともなっておこる血管の走行,分布の異常を基盤として発現したものと解釈される.

収録刊行物

詳細情報

問題の指摘

ページトップへ