古事記・日本書紀の神話とインド・ヨーロッパ語族の神話の構造分析を行い、その構造の比較から日本神話の神々の体系の特徴について考察する研究を行った。具体的には、昨年度に引き続き、日本神話とギリシア神話の「海の神」の役割について、とくに支配者との関係の取り結び方に注意しながら比較を行った。また、海の神として神話、伝説の中にしばしば登場する宗像三女神について研究するため、国内旅費を申請し、福岡県の宗像大社へ調査に赴き、資料を収集した。この研究成果は、論文としてまとめ、発表した。 また、昨年度から行っている日本神話の比較神話学的研究の歴史についての考察にも引き続き取り組んだ。明治期、大正、昭和前期の神話研究については昨年度までに整理、分析していたので、今年度はまず、大林太良、吉田敦彦、河合隼雄ら昭和の半ばから活躍をはじめた神話学者の研究をまとめた。さらにレヴィ・ストロースやミルチア・エリアーデ、ジョーゼフ・キャンベルといった現代を代表する欧米の神話学者(宗教学者)の研究について、その著作を購入、および複写により収集し、とくに日本神話研究との関係に注目しながら整理し、分析を行った。これらの研究については、論文としてまとめており、来年度学会等で発表する予定としている。 さらに今年度は、比較神話研究がどのようにその当時の社会的、政治的状況と関わっているのかを考察していく手がかりとして、明治24年から25年に起きた久米邦武の筆禍事件を調査した。この調査に当たって、事件を報じる当時の新聞や雑誌、書籍を主に複写によって収集し、整理、分析を行った。この研究の成果は現在、論文として執筆している。