地球規模炭素循環におけるミッシングシンクの解明
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- 依田 恭二
- 研究代表者
- 大阪市立大学
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- THORANISORN ソムチャイ
- 研究分担者/共同研究者
- タイ王宮庁
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- PRACHAIYO Bu
- 研究分担者/共同研究者
- タイ王室林野局
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- DHANMANONDA プリチャ
- 研究分担者/共同研究者
- Kasetsart大学
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- SAHUNALU Pon
- 研究分担者/共同研究者
- Kasetsart大学
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- 神崎 護
- 研究分担者/共同研究者
- 大阪市立大学
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- 川口 英之
- 研究分担者/共同研究者
- 京都大学
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- 信濃 卓郎
- 研究分担者/共同研究者
- 北海道大学
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- 大崎 満
- 研究分担者/共同研究者
- 北海道大学
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- 桜井 克年
- 研究分担者/共同研究者
- 高知大学
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- ブレッド プラチャイヨ
- 研究分担者/共同研究者
- タイ王立森林省
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- ソムチャイ トランソン
- 研究分担者/共同研究者
- 宮内庁土地管理局
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- プリチャ ダンマノンダ
- 研究分担者/共同研究者
- カセサート大学
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- ポンサク サフナル
- 研究分担者/共同研究者
- カセサート大学
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- 篭谷 康行
- 研究分担者/共同研究者
- 大阪市立大学
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- THORANISORN Somchai
- 研究分担者/共同研究者
- Land Management Department, Imperial Household Agency
研究課題情報
- 体系的番号
- JP05041102 (JGN)
- 助成事業
- 科学研究費助成事業
- 資金配分機関情報
- 日本学術振興会(JSPS)
科研費情報
- 研究課題/領域番号
- 05041102
- 研究種目
- 国際学術研究
- 配分区分
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- 補助金
- 研究機関
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- 大阪市立大学
- 研究期間 (年度)
- 1993 〜 1994
- 研究課題ステータス
- 完了
- 配分額*注記
- 12,000,000 円 (直接経費: 12,000,000 円)
研究概要
1.乾燥常緑林 乾燥常緑林では,森林の炭素循環をシミュレートする過程で,いままで無視されてきた2つの要素,炭素循環の律速過程である栄養塩類の動態と森林の更新ダイナミクスを重点的に調査した.炭素の動きの速度を左右するのは,栄養塩類の利用可能量と植物の栄養戦略であること,また,森林の更新サイクルにともなう構造の不均質性をモデルに組み込むことがモデル化に不可欠であるとの認識にたち,以下の成果を得た. (1)森林の構造と種類組成:サケラート環境研究センター内の乾燥常緑林(Dry Evergreen Forest)に設置した2.5haの調査区で行った森林構造の調査の結果,林冠木の立枯や倒伏が引金となって400m^2以下の面積のギャップがほぼ毎年形成され,それが森林構造を常に不均質にしていることが明かとなった.また,ギャップの形成確率は既存のギャップの周辺部で極めて高いため,1度に形成されるギャップの面積は小さいにも係わらず,森林のモザイク構造はきめの荒いものに成っていた.このため,森林全体としての現存量や枯死植物体量は長周期の大きな変動を起こすことが予想された. (2)リター落下量と栄養塩類循環:1993年度から継続しているリター落下量の調査から,1本1本の木の落葉は,樹冠を中心にして極めて狭い範囲に集中して落下していることが判明した.また,落下するリター中に含まれている窒素は種によって大きく異なり,非フタバガキ科では一般に低い濃度を,逆にフタバガキ科のうちHopea ferreaは高い濃度を持っていた.これらリター中の窒素濃度と,生葉中の窒素量を比較し,落葉前の葉からの窒素の引き戻し量を種間で比較すると,Hopea ferreaの引き戻し量が少ないことが判明した.構成種の栄養塩類をめぐる戦略はこのように多様であり,今後炭素循環をモデル化するにも,栄養戦略のちがいにより,種をカテゴライズする必要がある.また,落葉の散布範囲が小さく,森林内のA0層の栄養塩類濃度も林内で極めて不均質であることが指摘された. (3)地表面でのメタンフラックス:林床に散在する各種の形状のシロアリの塚や,倒木でメタンの発生が観測された.とくにシロアリ塚でも半径50cm以内の小型で突出した塚からのメタン発生量が高く,平均で4.58mgCH_4/m^2/hrに達した.一方通常の林床ではごく一部の観測点を除いて,メタンは吸収されていた.森林全体としての炭素循環の中で,メタンの占める割合は絶対量としては少ないが,地球レベルのメタンの動態の中で,シロアリの生息する熱帯域の森林の重要性は,もっと評価されるべきだろう. (4)これらの成果をもとに既存の森林内炭素循環モデルを再構築するのが今後の課題である. 2.森林火災制御下の乾燥落葉林 乾燥落葉林はタイ国内で最も分布面積の広い森林であり,森林火災の影響下にある森林が多い.今回の調査では,これら落葉乾燥林が火災のコントロールによって,どの程度炭素シンクとしての機能を発揮できるのかを明らかにすることを目的として調査を行い,以下の成果を得た. サケラート環境研究センター内の一角に設置された防火試験区では27年間防火帯の設置によって森林火災が防がれてきた.通常の乾燥落葉林(Dry Deciduous Forest)ではほとんど毎年のように森林火災が生じて,実生,稚樹の更新が妨げられているが,防火試験区での毎木調査の結果,現存量、立木密度ともに対象区に比べて大きくなり,常緑林の構成種11種が新たに侵入しているのが認められた.また,これらの種のほとんどが鳥散布型の果実をつける種であった.このことから,タイ国内の乾燥落葉林での森林火災のコントロールがすすめば,炭素のシンクとして極めて大きな意味を持つことが確認できた.また,現在行われているタイ国内での森林の保全活動のもとで,森林火災の頻度は減少しつつあると考えられるため,いま現在でも炭素のシンクとして機能している可能性があり,広域的な乾燥落葉林のモニタリングを行う必要がある.