牟宗三(1909-1995)は新儒家を代表する人物であり、その学問・思想は学術世界において大きな影響力を持っている。牟氏は、儒教思想だけでなく西洋哲学や仏教思想にも造詣が深く、スケールの大きな独自の儒教哲学体系を構築した。宋明思想についても鋭い分析を加え、宋明思想の展開を三つに分ける三系統説を主張した。ところが牟氏がなぜこのような見解を示すに至ったのか、その文献解釈の方法や論理構造については十分な解析がなされていない。そこで本研究では、牟宗三の構築した儒教哲学体系の特質を明らかにするとともに、三系統説をはじめとする牟氏の宋明思想理解がどのような経緯で形成されたのかを具体的に解明する。