従来の長崎市場研究は近世初期における貿易を背景とした商品市場と金融市場を対象としたものと、幕末期における九州諸藩の長崎金融市場に集中している傾向にあり、中期から後期にかけての展開過程には検討の余地が残されている。本研究では近世後期とりわけ文化・文政期の長崎町人と長崎市場のあり方を検討する。近世後期の長崎の都市社会は、18世紀末から19世紀初頭にかけて貿易の縮小傾向が進行し、またロシア船やイギリス船などの異国船来航が相次いだことにより社会不安が顕在化した。本研究の問題関心は、こうした社会状況のなかで長崎町人はいかなる思考をめぐらし、長崎の市場構造が形成されていったのかを解明するところにある。