羽二重産地における力織機化と工場制 ―産業集積の観点から―

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タイトル別名
  • The Instruction of Power Looms and the Factory System in Habutae Silk Production Areas : In the Context of Industrial Agglomerations
  • ハブタエ サンチ ニ オケル リキショッキカ ト コウジョウセイ : サンギョウ シュウセキ ノ カンテン カラ

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抄録

力織機化は「問屋制」から「工場制」への転換点とされてきた。この考え方は「工場制」の本質が垂直統合だとする前提に立っている。しかし,この前提は羽二重産業には当てはまらない。そこで,本稿では「工場制」の本質が水平統合だとする前提に立って,力織機化の意義について再検討した。産業集積により中間投入財を供給する地域市場が成立し,企業が中間投入財を外部市場から調達した方が合理的な環境になれば,産業組織において垂直非統合が生じ得る。羽二重産地では原料生糸や力織機,電力といった中間投入財に関して垂直非統合が確認された。また,福井産地では製織工程の垂直非統合により,「工場制」から「問屋制」への移行が生じた。 機業家から見た場合,「工場制」は「奉公」という労働力供給システム,そして「問屋制」は「余業」という労働力供給システムに依拠していた。他方で,女性労働者から見た場合,「工場制」は主に未婚者の通勤,あるいは寄宿の労働,そして「問屋制」は主に既婚者の在宅労働という就業形態を意味した。「奉公」という労働力供給システムの利用には女工の確保・育成に要する費用の負担が必要で,力織機化によって外部費用も発生した。このため,福井産地では「余業」という労働力供給システムが併用され,力織機化に並行して「問屋制」も拡大した。このように,「問屋制」と「工場制」はオルタナティヴな関係にあったのではなく,機業家に多様な経営形態を,そして女性労働者に多様な就業形態を提供することによって,集積利益を生み出していた。

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