ドイツにおけるデュアル・システムの実際(Ⅰ) -技能訓練における日独比較の観点から-

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タイトル別名
  • ドイツ ニ オケル デュアル システム ノ ジッサイ 1 ギノウ クンレン ニ オケル ニチドク ヒカク ノ カンテン カラ
  • The Dual Vocational Education and Training System in Germany (I): A Comparative Research from the Viewpoint of In-Firm Skill Formation in Japan

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抄録

本号と次号とにわたりドイツの職業教育におけるデュアル・システムについて、とくに養成訓練の技能実習を受けもつ企業の役割を中心に、日本の企業内教育訓練との比較研究の視点から論述する。中心論点は、以下の3点である。第1に、ドイツでは、職業教育が社会経済システムの中に堅固に組み込まれており、その構造の理解がまず肝要であること。第2に、経済界、とくに大企業における職業訓練施設を含めた訓練サービスの提供は、その費用負担において、"ノーブレス・オブリージ"とも言うべき社会貢献の要素が濃厚であること。そして、第3に、職業訓練修了試験の実権を握る商工会議所のツンフトの伝統遵守の精神と、生産システムのIT化・統合化への転換著しい今日の産業競争力との兼ね合いは如何なるものか、という3点である。 ドイツにおける職業訓練、特に養成訓練は、社会全体で将来へ投資することを是とする。産・官・学が一体となった職業教育システム形成の歴史的背景と文化の理解、すなわち、産業におけるいわゆるドイツ人気質の形成を現場から考察するという作業を行う中から、技能形成を中心に職業教育の全体像をつかみ、それが次世代に受け継がれていく様子を捉まえる。技術革新と伝統とは相克しつつも、現代においては企業のグローバル化戦略という接点でつながっていると考えられる。専門的分業による確かな技術力をベースとした競争力を以て、グローバル化する経済に独自の存在意義を堅持しようとする点が指摘できる。その背景には、中等教育の早い段階で行われる、子どもの職業選択における父親の役割も垣間見える。また、時間がかかるという難点はあるが、技能修得と高等教育を同一個人のうちに形成するという選択も、ごく一般的に行われている。"Gut Ding will Weile haben."(良いものは時間がかかる)というドイツの格言は、そのまま人材形成にも適用できよう。 洋の東西を問わず、少子高齢化が進む先進国において、次の世代の能力開発をどう進めるかは、今後の産業の成長力を左右する喫緊の課題である。今後の日本の製造業における中長期的人材育成の方針を見極める上でも、伝統あるドイツの職業訓練システムについて、現時点での製造現場からの実証分析は意義あるものと思われる。

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収録刊行物

  • 国際経営論集

    国際経営論集 39 145-154, 2010-03-31

    神奈川大学経営学部

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