英米法系公法の調査研究(1) 組合費の強制徴収と結社の自由 Harris v. Pat Quinn, 134 S. Ct. 2618 (2014) / 営利法人と信教の自由 Burwell v. Hobby Lobby Stores, Inc., 573 U.S._, 134 S. Ct. 2751 (2014)

抄録

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団体の活動に対して構成員はどれほどの協力義務を負うのか。とりわけユニオンショップ協定下における組合員の協力義務については,合衆国最高裁判所においても多くの判例が存在する。とくに,1977年に判示されたアブード判決は,協力義務の確定に際して,「団体交渉事項に密接に関連する事項」か否かを基準にする判断を示し,これが長きにわたって合衆国最高裁判所の判例をコントロールしてきたのである。本稿で分析検討するハリス事件は,このアブード法理を縮減し,あるいは実質的に判例変更を行った事例である。  今般,アメリカ公法研究会を始めるに当たり,わが国の憲法学にとっても参考となる事例であると考える。 /  わが国における「法人の人権」をめぐる議論として,判例・学説は性質説の立場を採っている。しかし,ある人権が法人について保障されているかどうかを検討する際に,人権ないし法人の「性質」として何を抽出すべきであるかは,必ずしも明らかではない。本稿では,営利法人による宗教活動という問題を取り上げたHobby Lobby判決について検討し,「法人の人権」をめぐる議論に対する示唆を考察する。  本判決における法廷意見および反対意見はいずれも,擬制説的法人観に立脚している。このような法人観によれば,「人の宗教活動」を保護する宗教の自由回復法は,直接には法人に適用されない。自然人による集合的な宗教活動を保護することを通じて,同法は,法人に対しても間接的に適用されることとなる。また,本判決は沈黙しているものの,アメリカ合衆国憲法第1修正の宗教活動の自由条項も,同様に解すべきであろう。法人によってなされる宗教活動は,同条項によって保障されているとはいえない。  法人に人権を保障すべきであるとする見解について,わが国では,擬制説的法人観および実在説的法人観の双方を論拠とした説明がなされている。しかし,いずれの論拠も確固たるものではない。営利法人は,法的には,法律によって組成された主体であるにすぎない。本判決の擬制説的法人観によれば,宗教的な利益に寄与する活動を実施したとしても,営利法人が信教の自由を享有するとは認められないといえよう。ただし,自然人の利益に抵触しない範囲において,法律が特に規定する場合には,法的保護が与えられる。このような立法を禁じているとまでは解されないのである。

収録刊行物

  • 比較法雑誌

    比較法雑誌 50 (1), 299-353, 2016-06-30

    日本比較法研究所

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