経幽門経管栄養中に肥厚性幽門狭窄を発症した乳児3例

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  • Hypertrophic Pyloric Stenosis in Infants Fed via Transpyloric Tube: Three Case Reports

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抄録

肥厚性幽門狭窄は、新生児期から乳児時期の胃排出障害をきたす要因として周知されている。しかしながら、その病態生理は未だ不明な点が多く、明らかとはなっていない。今回我々は、市販のエンテラールフィーディングチューブを用いた経幽門経管栄養中に、幽門筋の肥厚による胃排出障害が惹起された3例を経験した。  呼吸器障害、循環器障害、あるいは神経系の障害のために経口摂取が困難な新生児においては、通常は経鼻胃管から母乳ないしミルクを注入し経腸栄養サポートを行っている。胃内注入により、呼吸窮迫を生じる、誤嚥を繰り返す、体位ドレナージによっても胃残が多い、胃食道逆流がみられる、などの場合には経鼻経幽門経管栄養を選択している。また、長期に人工呼吸サポートを要する状況で経腸栄養管理を行う場合にも誤嚥防止の観点から経幽門経管栄養が選択されることがある。胃を介さない経管栄養管理中の留意点としては、ダンピング様症状や高浸透圧性下痢症状などが一般的であるが、1982年にEvansらによって初めて経幽門経管栄養管理中に惹起された幽門筋肥厚症例が報告された。  自験3例は出生前診断された重度な右横隔膜ヘルニア、頚部巨大リンパ管奇形、臍帯ヘルニア症例であった。新生児期の手術後も、長期の人工呼吸換気を要し、この間の経腸栄養サポートとして経幽門経管栄養が選択された。チューブの留置から数か月間の間に、胃残は少しずつ増加し、少量の非胆汁性嘔吐が時折みられるようになった。腹部超音波検査により、幽門筋の肥厚が明らかとなり胃排出障害の要因と判断された。3症例とも粘膜外幽門筋層切開術を施行され、すみやかに症状の改善が得られた。チューブ留置期間は40~146日間であった。  過去8年間で、総計107例に対して新生児期から共有紋経管栄養サポートを行っている。うち3例(2.8%)にのみ、肥厚性幽門狭窄の発症がみとめられた。両者のチューブ留置期間に統計学的有意差はみられなかった。本邦の肥厚性幽門狭窄発症頻度は、1000出生に対し1~2例(0.1 ~ 0.2%)といわれており、経幽門経管栄養サポート下の同症発症率はおよそ15倍に相当すると評価された。検索し得た限り、同様な症例の先行報告は16例のみであった。通常みられる肥厚性幽門狭窄症の症状は噴水状嘔吐であり発見は容易であるが、経幽門経管栄養中の肥厚性幽門狭窄症状は胃残の漸増や少量嘔吐の持続などが主体であり、留意していなければ気づきにくい症状であった。経幽門経管栄養が幽門筋肥厚に及ぼす明らかな病態生理は未詳であるが、このような稀な事象があることは、今後、臨床上留意すべき点であると考えられた。

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