翻訳―ウィリアム・ペティ『賢者には一言をもって足る』 ―翻訳と解題―

書誌事項

タイトル別名
  • Translation & Comment : William Petty’s Verbum Sapienti
  • ホンヤク ウィリアム ・ ペティ 『 ケンジャ ニワ ヒトコト オ モッテ タル 』 : ホンヤク ト カイダイ

この論文をさがす

抄録

本稿はW・ペティの『賢者には一言をもって足る』を翻訳して,解題を付したものである。『賢者』の概要については,解題で記した。ここでは,この論説を翻訳する意義について付言しておきたい。ペティの主要な経済論説は,C. H. Hull ed., The Economic Writings of Sir William Petty(1899)に収録されている。重要な論説は1940~50年代に大内兵衛と松川七郎により,この著作集を底本にして邦訳された。『賢者』は1952年に『租税貢納論・他一篇』(岩波文庫)として刊行された。この訳業がおこなわれた確かな理由は,マルクスがペティを「経済学の父」と呼んで高く評価したからである。労働価値説を最初に言明するとともに,政治算術=経済分析方法を考案した人物として評価したからである。このような理由により,政治算術が最初に実践された『賢者』は,小論ではあるけれども翻訳されたのである。ところが今日,『賢者』が顧みられて然るべき理由はそれだけではない。1989年に歴史家J・ブルーアは「財政・軍事国家」という分析的用語を案出した。これは戦費を効率的に調達できる行政・財政機構を備えた近代国家の意である。この用語は,そのような「国家」だけが覇権国になる可能性を秘めているということを含意している。これが今日の国際政治・関係を把握するうえでも有益な分析的枠組みをなしていることは,いうまでもない。翻ってこの用語を経済思想史の観点から検討するとき,当の「国家」の構想をいち早く抱いたのはペティであった,といえる。彼は『賢者』で,戦費調達能力を高めて国力を強化することを目的とする税制改革を提案しているからである。こうして,その新訳を提示することの意義は,明らかであろう。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ