非音階音の出現に伴う調知覚の漸進的変化

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タイトル別名
  • Incremental change of key perception in hearing a non-scale tone
  • ヒオンカイオン ノ シュツゲン ニ トモナウ チョウチカク ノ ゼンシンテキ ヘンカ

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抄録

西洋音楽の聞き手は,メロディ(音高列)を聞くとき,基本的に,その構成音高全てを西洋全音階の音階音として解釈できる調に知覚しようとすることが知られている。では,現在知覚している調にとって非音階音となる音高が出現した時,聞き手の調知覚はどのように変化するのであろうか,あるいは,変化しないのであろうか。本実験では,音列全体を全音階的に解釈できる調が長調2種,短調2種となる音列を基本音列として用意し,その上で,1音を追加することで,次の4つの刺激音列条件を設定した。すなわち,(a)2-keys-F条件:1音の追加によって全音階的に解釈できる調が長調1種(上記2種の調の中でより調号の少ない調),短調1種(同)となる音列の条件,(b)2-keys-M条件:1音の追加によって長調1種(上記2種の調の中でより調号の多い調),短調1種(同)となる条件,(c)0-key条件:1音高の追加によって全音階的に解釈できる調が無くなる条件である。これら3種の条件に加えて,(d)4-keys条件:1音高が追加されても,基本音列と同じく,全音階的に解釈できる調が長調2種,短調2種となる条件も設定した。絶対音感をもつ音楽熟達者12名に,基本音列20種,および,各基本音列に1音高を加えることで作成した上記4条件の音列80種を呈示し,調の反応を求めた。実験の結果,基本音列に対する反応はより少ない調号の長調に集中した。基本音列をより多い調号の調に解釈した少数派の反応は,2-keys-F条件では非音階の出現によって全音階的に解釈できる別の調に変更された。基本音列をより少ない調号の調に解釈した多数派の反応は,2-keys-M条件では非音階音が出現してもその調解釈は維持されていた。基本音列を全音階的に解釈した調の反応は,0-key条件では基本的に各調の反応がそのまま維持されていた。以上の結果をまとめると,基本音列に対する調解釈が個人間および個人内で安定している時は非音階音が出現しても現行の調解釈が維持されやすいが,そうでない時は非音階音の出現によって別の解釈に変更されやすい,ということである。すなわち,非音階音が出現した時に聞き手の調知覚が変化するか維持されるかは,それよりも前の段階での調解釈に依存して決まる,ということである。

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