伊波普猷と「沖縄学」の形成 : 個性と同化をめぐって

書誌事項

タイトル別名
  • Fuyu Iha and Formation of Okinawa Study : ‘Uniqueness’and‘Assimilation’
  • イハ フユウ ト オキナワガク ノ ケイセイ コセイ ト ドウカ オ メグッテ

この論文をさがす

抄録

伊波普猷(1876 - 1947,以下は伊波)は沖縄県出身の民俗学者として著名である。伊波の学問領域は,沖縄研究を中心に言語学・文化人類学・歴史学・宗教学など多岐にわたっている。これらの研究業績をもとにして「沖縄学」の形成があったとされているので,伊波は「沖縄学の父」ともよばれている。しかしながら伊波の学問業績に関しては,肯定的な評価と否定的な評価があり,いずれの評価であっても伊波の学問領域が多岐にわたっていることには言及されるものの,沖縄学という学問領域に対して,どのような寄与をしたのかということは明らかになっていない。  伊波は中学校退学後に「沖縄」を発見し,帰郷後に「沖縄」を展開し,さらに上京後に「沖縄」を解釈するという一連の営為によって,沖縄の思想史や文化史に独自の地位を築いた。伊波は沖縄に関する記述について,当初は歴史学に求め,そして次第に言語学に求めるようになる。歴史学や言語学以外にも,人類学や優生学からも,その成果や用語を引っ張り出している。この過程で伊波の記述は政治性を帯びたものとなっていく。その意図は,主に『おもろさうし』研究を通じて,沖縄は日本とは異なる特質をもつ地域であることを強調し,その独自性を強調するものであった。それによって日本の歴史に押しつぶされている状態から沖縄を解き放とうとしたものであった。この点で伊波のいう日琉同祖論は,精神的な自治とでもいうべきものをめざしていたといえる。  伊波は晩年に文化的言語的諸現象の実態を体系化していくことが沖縄学の体系化と考えたようである。しかし,この体系化は未だ課題として残っている。現在では沖縄学を進展させるために,沖縄の文化やその関連分野に関する研究と,沖縄のアイデンティティを確認する内省の学としての思想や哲学などの研究を,必ずしも結びつけて語る必要がないという意見もある。しかし前者の研究と後者の研究とは,むしろ結合する方向で展開しなければ,体系化された学問分野としての沖縄学は見出せない。  このことから沖縄学を確立できる途は,明治期以降における伊波などの沖縄の代表的な思想家による思惟の過程を丹念に読み解くことであると考えられる。なぜなら,沖縄学の確立にとって必要なことは,学問的な成果を評価することではなく,各々の時代背景から影響を受けた学問的方法や分析手法が,どのように確立されていったのかを解明することであるからである。

1 はじめに 2 沖縄研究の端緒 3 琉球処分と啓蒙運動 4 日琉同祖論と個性論 5 同化論と宗教 6 ソテツ地獄と転向 7 南島研究の展開 8 沖縄学の課題

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ