コミックの物語論構築に向けて(その2) : 『ポール・オースターのガラスの街』に関する考察

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  • コミック ノ モノガタリロン コウチク ニ ムケテ ソノ 2 ポール オースター ノ ガラス ノ マチ ニ カンスル コウサツ

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抄録

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コミックという芸術形式においては、視覚的次元でのディスコースが文字テキストを補強する形で加わることにより、語りの重層(重奏)性が生み出される。『ポール・オースターのガラスの街』(1994年)においては、視覚的モティーフと視覚的メタファーが巧みに利用されて、独特な視覚的空間的ディスコースが生まれ、文字テキストの直線的な語りには隠されたもう一つの意味構造を付け加えている。 例えば、格子のモティーフや「叫び」のモティーフは、作品中で繰り返し使用されることによって、それが出現する(離れた場所にある)コマとコマの間に、意味上の指示参照関係を成立させる。読者はそれらのコマを相互に想起することで、登場人物たちの心理状態や運命など、文字テキストには明示されていない意味内容を読み解くことができる。 迷路(指紋)のメタファーも同様に、主人公が迷い込んだ事件の迷路や意識の迷宮を象徴的に表し、物語に豊かな意味の合みをもたらしている。 文字テキストは線状的に連続していて統語論的な論理に従うが、視覚的テキストは、異なるページ上のコマとコマの間にも意味論的な関係を作り上げることができる。こうした超線状性こそが、言葉という手段には到達不可能な新たな語りの次元であり、コミックという複合メディアの読者に要求される読みのリテラシーでもある。

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