規則の水平的不整合:「常陽」第4次操業の事例分析

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  • キソク ノ スイヘイテキ フセイゴウ : 「 ジョウ ヨウ 」 ダイ4ジ ソウギョウ ノ ジレイ ブンセキ

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抄録

本稿の目的は、規則からの逸脱が生じる一つの論理を提示することにある。とりわけ「規則の水平的不整合」に着目し、逸脱行為を誘発するような規則の水平的不整合が生じる論理を詳細に展開する。また、この論理の適合事例として、1999年9月30日に臨界事故を引き起こした株式会社ジェー・シー・オーでの一つの逸脱行為を取り上げる。具体的には、中濃縮度の硝酸ウラニル溶液の再転換作業が初めて行われた「常陽」第4次操業での逸脱行為を明らかにした上で、その行為の背後に存在する論理を説明する。規則からの逸脱行為が生じる理由として、規則を遵守することができるにもかかわらずしないという、行為主体の倫理感や道徳的な態度を問題視する議論が展開されることが多い。しかし、行為主体の倫理感や道徳的な態度の如何にかかかわらず、現場の作業の観点から考えると規則を遵守することが困難な場合がある。この場合、元来、逸脱行為を抑制・防止し、実際の組織活動を統制するために存在する「規則」や「規則策定プロセス」に内在している特性それ自体が逸脱行為を促進してしまうという逆説的な論理が存在しうる点 がとりわけ重要である。本稿では、「常陽」第4次操業における発見事実から、規則間に生じる水平的な不整合がこの種の逸脱行為を促進する論理を仮説的に提示する。論理の要点は以下のとおりである。規則間の水平的な不整合は、階層構造をなす諸規則の策定において、上位の階層と下位の階層とでは同一階層内における諸規則間の相互依存性が考慮される度合いに相違が存在するために生じる。すなわち、上位の規則では、規則間の相互依存性の考慮される度合いが相対的に低くなりやすくなる一方で、下位の規則では、相対的に高くなりやすい。これは上位の規則と下位の規則では規則の策定の際に重視されることが異なることによる。上位の規則の場合はさらに上位の規則を厳密に遵守することが重視されるのに対して、下位の規則の場合は現場の作業を問題なく行えることが重視されるのである。以下では、次の順序で議論を展開する。第2節と第3節では組織論における規則に関する既存の議論と関連づけながら、「規則間の水平的不整合」の観点から逸脱行為の論理を提示する。第4節から第7節は「常陽」第4次操業の事例記述に該当する。第4節ではJCOの事業概要と臨界事故の全体像について説明した上で、「常陽」第4次操業で行われた逸脱作業を説明する。第5節から第7節では規則間の水平的不整合の点から「常陽」第4次操業で行われた逸脱作業に至るプロセスについて検討する。最後に第8節では第7節までの議論を整理した上で、本稿の議論から導かれる若干の含意を述べる。

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