教育失敗の隠れたメカニズム

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  • Invisible Mechanism of Failure in Education

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抄録

教育は公共財の性質を有するサービスであるため、すべての需要主体に共通の価格シグナルを適用しようとすれば効率的な供給はできない。これはよく知られた競争市場の失敗例である。また、教育は公共部門に限らず民間部門が広く供給しているサービスであるが、公共部門か民間部門かを問わず、モラル・ハザードが生じやすいサービスでもある。こんにち、全国的に大学生の学力低下が指摘されているが、議論の多くは高等学校までの基礎教育が不十分であるため、大学で効率的な教育ができないというものである。しかし、大学内にも教育の失敗を引き起こす誘因が存在する。本稿の課題は、学生を対象としたアンケート調査の結果を参考にしながら、大学教育がどのように失敗するのか、そのメカニズムを明らかにすることである。分析のインプリケーションは次のとおりである。(1)明確な目的意識を持たずに入学する学生の増加や、大学側の不十分な情報提供によって、学生が教育の質を適切に評価できなければ、教員は低質な教育を供給しようとする誘因を持つ。(2)教育の低質化による弊害を隠蔽するため、教員と学生が結託してリスクをシェアした場合、低位均衡を改善する機会は失われて、低質教育が常態化する。こうした事態について、例えば以下の改善策が考えられる。(a)どのような人材を育成しようとする学科であるのか、カリキュラムと卒業後の進路との対応関係などを十分に広報すること。(b)有効な教育が実施されていることを説明できるように、教員は自らの教育内容(授業,成績評価,授業評価の内容など)を開示すること。(c)安易に単位を出すための方策は,すべて見直すこと。したがって、「学力の低下した学生が入学してくるので、単位の取得条件は平易にすぺきである」というような通説は、事態を悪化させるだけである。

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