外来魚ブルーギルの捕食量抑制に与える人工音響の効果 : 順応と集団比較

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  • ガイライギョ ブルーギル ノ ホショクリョウ ヨクセイ ニ アタエル ジンコウ オンキョウ ノ コウカ ジュンノウ ト シュウダン ヒカク

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抄録

外来生物は生物群集や生態系に不可逆的な影響を与える場合があるため、健全な自然環境の維持や持続的な生態系サービスの享受という観点から、外来生物の駆除・管理に関する研究が進んでいる。ブルーギル(Lepomis macrochirus)は1960年に日本に導入され、現在では全ての都道府県での定着が確認されている北米原産の淡水魚である。日本の侵略的外来種ワースト100に選定されたほか、2005年6月に施行された外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)では特定外来生物に指定され、輸入・保管・飼育・運搬・放逐などの行為が制限されている。これらの処置により、未侵入地への人為的な移動・拡散は今後、抑制されると思われる。しかし、ブルーギルはすでに日本国内の広範囲な定着が確認されていることから、未侵入地への分布拡大を抑制するだけでは十分ではなく、すでに定着が確認されている侵入地での影響緩和に向けた対策も同時に行う必要がある。岐阜県では、主に美濃地方のため池や河川を中心にブルーギルの定着が確認されており、侵入地での積極的な駆除活動がNPO、一般市民、国土交通省、岐阜県などにより行われている。ため池などの水位操作が可能な場所では主に池干しにより、河川やダム湖などでは、刺網、投網、釣り、トラップなどを使用した駆除が実施されている。しかし、これらの方法には限界がある。例えば、池干しによる駆除はブルーギルの効率的な駆除ができる反面、他の水域へのブルーギルの逸脱や同じ場所に棲む水生生物への影響が看過できない場合がある。一方、刺し網、投網、釣り、トラップなどを使用した駆除では、全ての生息個体を根絶やしにすることは通常、困難である。さらに、厄介な問題として、駆除活動は通常、ごく限られた空間スケールにおいて個別的な対策が実施される。そのため、大きな個体群が他の場所に存在すれば、その場所からの個体の移入・供給により、駆除を実施した場所でも速やかに個体群が回復する場合がある。このように、すでに広範囲な定着が確認されているブルーギルのような外来生物を駆除する場合、非常に多くの労力・費用・時間がかかる反面、期待できる駆除効果や生物群集や生態系の復元効果が少ないという問題点がある。しかし、ブルーギルの影響を緩和させる技術がないため、現在では、費用対効果の低い個体除去による集団の抑制に依存している状況にある。岐阜県河川環境研究所では、ブルーギルの捕食量や産卵行動を阻害する技術として、水中人工音響を利用した基礎研究をおこなってきた。科学的知見は非常に少ないものの、人為的活動にともなう水中音響は、難聴、行動の変化、内分泌学的なストレス反応など、海洋・陸水域の水生生物に対して影響を及ぼす可能性が指摘されている。こうした水生生物に与える水中音響の特性をブルーギルに適用することで、ブルーギルを完全に駆除できない環境下で、ブルーギルの侵略的影響を緩和させることができるかもしれない。水中人工音響の特徴として、(1)水中では減衰率が少なく、広範囲での効果が期待できる、(2)技術・労力の負担が少なく継続的に実施できる、(3)スイッチのオン/オフにより制御可能であり在来生物や生態系への不可逆的な悪影響を回避できる、といった利点がある。現在までに、ブルーギルの捕食量を抑制させる音響の抽出(最も効果的な音圧と周波数の抽出)、ブルーギルの産卵行動ならびに受精卵のふ化率を低下させる音響の抽出(最も効果的な音圧と周波数の抽出)を報告した。しかし、これらの成果はある特定のブルーギル集団を用いた短期的な実験結果に基づいている。そのため、抽出した音響の効果が異なるブルーギルの集団でも有効であるのかといった問題や、より長期的な効果があるのかといった問題がわかっていない。本報告では、今までに抽出した音響に関する効果の持続性(どれほど、効果が持続するのか?)と効果の汎用性(どの集団でも効果的であるのか?)についての室内実験を行ったので報告する。

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