絶滅が危惧される菌従属栄養植物ハルザキヤツシロランとクロヤツシロランの生態的特質とリゾームの野外での生存への給水効果

書誌事項

タイトル別名
  • Ecological characteristics and water supply effect on in situ conservation in Gastrodia nipponica G. pubilabiata, the endangered myco-heterotrophic orchids
  • ゼツメツ ガ キグ サレル キン ジュウゾク エイヨウ ショクブツ ハルザキヤツシロラン ト クロヤツシロラン ノ セイタイテキ トクシツ ト リゾーム ノ ヤガイ デ ノ セイゾン エ ノ キュウスイ コウカ

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抄録

菌従属栄養植物のハルザキヤツシロランとアキザキヤツシロランの発生地での保存について研究した。日本版レッド-データブックによれば、この二つのランは絶滅危惧種で、その原因として森林伐採、土地利用の変化、植物遷移が挙げられている。二つのランは西南日本の竹林あるいは広葉樹林に生育し、両種は形態的にも生態的にもよく類似している。しかし、前者が4月から5月にかけて開花し6月初旬までには種子を飛散させるのに対し、後者は10月から11月にかけて開花し12月中旬までには種子を飛散させる。ハルザキヤツシロランとアキザキヤツシロランの発生地での保全の試みを自然発生のリゾームに対して水を充分に含ませた高吸水性ポリマーを用いて給水することによって行った。試験期間は梅雨直後から乾季の中期までであった。また二つのランの生態的特質を、ハルザキヤツシロランではリゾームおよび共生菌の地中での分布そして落葉分解菌のランに対する共生能力について調べ、二つのランではそれらの季節的な成長過程について記録した。得られた結果は次の通りであった。ハルザキヤツシロランとアキザキヤツシロランのリゾームへ給水した場合、リゾーム数の減少の割合は給水しなかった場合に比べて10%から37%低かった。リゾームは落葉層で生育し、それらの根は落葉や落枝に付着しながら水平に広がっていた。ハルザキヤツシロランの共生菌は地表面に小さなコロニーとなってパッチ状に分布し、垂直的には落葉層からA層上部の少なくとも4cmの深さまで生息していた。リゾーム周囲のキノコはランの種子発芽を養分無添加の寒天培地上で誘導した。二つのランは花期を除けば季節ごとの生長は類似していた。以上の結果から;(1)ハルザキヤツシロランとクロヤツシロランの発生地におけるリゾームへの給水は種の保全に大変有効である。(2)二つのランと共生菌は一生を通して落葉に着生した生活型を有している。(3)二つのランの生活は、東アジアモンスーン気候と密接に結びついている。(4)梅雨後の乾燥はリゾームの生存に影響する因子となっている。本実験において、ハルザキヤツシロランとアキザキヤツシロランは落葉層に生息し、そこに生育している落葉分解菌を共生の相手として密接な関係をもっていることが明らかになった。また、リゾームと落葉は共生菌の菌糸によって縫い合わされて一体となり、ラン、落葉、そして落葉分解菌の三者からなる一種の生態系を作っていた。われわれはこのような生活型を有するランに対して「落葉層生息植物」と呼ぶことを提案したい。

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