異体類の体色異常と色素細胞の分化に関する研究

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タイトル別名
  • Study on body color anomaly and pigment cells development of flatfishes

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抄録

異体類の種苗生産過程で今なお大きな問題である体色異常の発生機構を解明し,その防止策を探るためには,まず異体類特異的な左右非対称な体色パターンの形成機構を明らかにする必要がある。異体類の体色パターンは変態後半期以降に出現する成体型色素細胞の分布様式によって決定されていることから,変態期における成体型色素細胞前駆細胞の動態を明らかにすることが左右非対称な体色発現機構の解明の第一歩になると考えられる。本研究では,まず第1章で,ヒラメを材料として,発生過程における色素細胞系列のマーカー遺伝子の発現解析と蛍光標識による前駆細胞の追跡によって,仔魚期の成体型色素細胞前駆細胞の動態を検討した。その結果,変態後の成体型色素細胞の分布は左右非対称であるにもかかわらず,仔魚期の前駆細胞の分布および動態は,左右対称性を示すことがわかった。すなわち,前駆細胞は主に背鰭基部および臀鰭基部領域に左右対称に局在しており,この部位から体側部に向けて左右対称に移動していくことが明らかとなった。さらに,変態完了後,鰭基部から体側部に移動した蛍光標識細胞が,有眼側(左体側)では,成体型黒色素胞,虹色素胞に分化し,無眼側(右体側)では,虹色素胞に分化することが明らかになった。そこで,第2章では,哺乳類で色素細胞の分化を誘導することが知られており異体類ではstage E-Fに大量に分泌されるコルチゾルを変態期のホシガレイに投与することにより,前駆細胞の分化運命に左右非対称性が生じる時期を明らかにすることを試みた。コルチゾル投与実験の結果,変態期に高濃度コルチゾルを投与することによって,本来,虹色素胞だけが分化する無眼側においても成体型黒色素胞や黄色素胞の分化が誘導され,有眼側と同様な複雑な紋様を形成し両面有色となった。さらに,このような,無眼側における成体型黒色素胞や黄色素胞の分化誘導は,stage E-Fにコルチゾルを投与した場合にのみ見られ,stage G以降の投与ではこのような効果は認められなかった。さらに,stage E-Fのコルチゾルの投与により,黒色素胞およびその前駆細胞特異的に発現するメラニン形成酵素遺伝子dctの強い発現が誘導されることも確認できた。これらの結果は,stage E-Fまでは左右両体側の前駆細胞はともに,成体型黒色素胞,虹色素胞,黄色素胞にも分化することができ,左右対称性を維持しているが,stage Gにはすでに左右両体側に分布する前駆細胞が無眼側においてこれら色素細胞に分化できない非対称性が生じていることを強く示唆した。さらに,コルチゾルの分泌が増大するstage E-Fにコルチゾルを投与することで,成体型黒色素胞と黄色素胞の分化を誘導したことから,内因性のコルチゾルが変態期における成体型黒色素胞と黄色素胞の分化に関与している可能性をも強く示唆した。同時に,コルチゾルの投与によって両面有色個体の出現が増大したことから,変態期のストレスが体色異常発生の要因となりうる可能性も示唆された。

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