南九州第三紀層地域の山地渓流における主要イオンの起源と水質組成の支配要因の類推

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  • Use of field measurement data to identify possible sources of major ions in a stream flowing through evergreen forests in the southern Kyushu mountains

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渓流水質組成を規定する第一の要因は,流域を構成する基岩の岩種や地質構造等の地質的要因であるといわれてきたが,筆者は河畔域から渓流に供給されるリーフリターは膨大な量にのぼると推測されることから,その溶出成分も渓流水質の形成に重要な役割を果たすものであることを実験的に明らかにしてきた。これらの既往研究結果を踏まえ,本研究は5年間にわたり蓄積してきた現地渓流での水質測定結果をもとに,統計解析を交えながら,対象流域渓流水に含まれこれまで基岩風化起源とされてきた主要イオン(SO4 2-,Na+,K+,Mg2+,Ca2+)の流出に影響を及ぼす要因と起源の類推を試みたものである。一ツ瀬川支流竹尾川(宮崎県)を対象渓流とし,湧水箇所(spring),瀬(riffle),淵(pool),サイドプール(side-pool)の各3箇所の合計12箇所の採水ポイントから採水し,水温,電気伝導度(EC),pH,全炭素濃度(TC),全窒素濃度(TN),陽イオン(Li+,Na+,NH4 +,K+,Ca2+,Mg2+),陰イオン(F-,Cl-,NO2-,Br-,NO3-,PO4 3-,SO4 2-)濃度を測定した。採水および測定は,2011年7月~2014年1月の期間では高温増水期(5~10月),低温渇水期(11~4月)において無作為に選んだ日に行い,2015年4月~2016年3月の期間では,毎月1回の頻度で行った。2元配置分散分析と多重比較結果から,EC,pH,NO3-,SO4 2-,Na+,K+,Ca2+において,冬とそれ以外の季節との間に,また,NO3-,SO4 2-,K+,Ca2+,Mg2+において,湧水とそれ以外の流水環境との間に有意な差が認められた(P<0.05)。さらに重回帰分析結果から,SO4 2-,Na+,K+,Mg2+,Ca2+の流出に対しては,それぞれ水温,先行降雨量(90日間),TN/TC,Ca2+イオン濃度と先行降雨量,pHがすべての流水環境に共通する支配要因であることがわかった(P<0.05)。以上の結果から,Mg2+,Ca2+は基岩(calcite(CaCO3)もしくはdolomite(CaMg(CO3)2))の機械的・化学的風化を主な起源とし,K+はリター分解指標であるTN/TCとの関連が強くリターが滞留するside-poolにおいて濃度が高いことから,河畔域から渓流に供給されるリターの初期分解過程である溶出段階において放出されるK+を起源とすることが,統計的にも裏付けられた。

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