金融負債の当初認識後の現在測定における自己の信用リスク : 2009年IASBディスカッション・ペーパー「負債の測定における信用リスク」に対するコメントレターの分析に基づく

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タイトル別名
  • キンユウ フサイ ノ トウショ ニンシキゴ ノ ゲンザイ ソクテイ ニ オケル ジコ ノ シンヨウ リスク : 2009ネン IASB ディスカッション・ペーパー 「フサイ ノ ソクテイ ニ オケル シンヨウ リスク」 ニ タイスル コメント レター ノ ブンセキ ニ モトズク
  • Kinyu fusai no tosho ninshikigo no genzai sokutei ni okeru jiko no shinyo risuku : 2009nen IASB disukasshon pepa "fusai no sokutei ni okeru shinyo risuku" ni taisuru komento reta no bunseki ni motozuku
  • Own credit risk at the current measurement of financial liabilities following initial recognition: based on the analysis of comment letters to 2009 IASB discussion paper "credit risk in liability measurement"

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抄録

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資産価値が減少し負債の信用スプレッドが拡大した場合, より高い利率で金融負債の契約キャッシュ・フロー等を割り引くが, 利率の高くなった部分が不履行リスクの増加に見合うものと考えられるから, その現在価値には契約キャッシュ・フロー等の減額が組み込まれている。これを突き詰めてみれば, 事業活動が遂行可能となる債務免除額を見積もり, これを反映して負債を測定することと同じになるが, このような処理が認められるかどうかが論点となる。  貸手の利害関係は持分所有者よりも優先順位が高く, 減損損失をまず資本が負担し, 資本がゼロになった時点から貸手が負担をはじめる。負債を公正価値測定する場合, 損失が資本を超える前から信用リスクの悪化による利得を認識するが, 資本が損失を負担してゼロになった後, 債権者が債権の一部又は全部の免除に同意したときに利得を認識すべきであろう。  負債の信用リスクを織り込むことに反対の論拠は, 直観に反する, 未認識の無形資産等の変動が反映されない会計上のミスマッチ, 及び実現しないことである。これらを理由とし, ディスカッション・ペーパーの質問に対する回答結果は, 当初認識後の金融負債の現在測定においてデリバティブ及びトレーディング目的のものを除き負債の信用リスクを含めることに反対の意見が多く, 信用スプレッド凍結法を適用するという回答が相当数ある。  社債の一部買戻しによる利得の実現の事例も金融負債又は社債残高から見るとほんの一部である。HSBC の事例分析では, 公正価値オプションを適用した負債の信用リスクの変化による負債の公正価値測定から生じる利得は, 貸付金等の減損損失を下回っているものの, 減損損失の計上が進むにつれ信用スプレッドが縮小し大きな損失を計上している。このように短期間に大きく変動するこれらの損益の額には重要性があり, 純損益に計上した場合, 財務諸表の利用者に誤解を与える可能性が極めて高い。また, リーマン・ブラザーズの場合, 自己の信用スプレッドの変化の影響額である利得は, 純損益の推移に先行しているが, 2008年9 月の破産により額面に基づき残余財産の請求と配分が行われることになったと考えられるから, 当該利得は見かけ上の利益であったことになる。  したがって, 自己の信用リスクの変化から生じる利得を純損益に計上することは, 目的適合性がなく, 公正価値オプションから生じるものについても, 認識しないのが伝統的な会計の考え方に合うが, その他の包括利益に計上することは現実的な対応であろう。しかし, 将来, 全面的に公正価値測定を導入する場合には, 金融危機のような状況において自己の信用リスクの変化から生じる利得とその累計額は増大しさらに重要性が高くなるので, その他の包括利益に計上することでよいのか, それとも認識せず別途開示するのか再検討が必要であろう。

伊藤眞教授退任記念号=In honour of Professor Makoto Ito 論文

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