潰瘍性大腸炎の炎症性発癌早期病変 (dysplasia) と散発性腺腫との病理学的鑑別

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タイトル別名
  • カイヨウセイ ダイチョウエン ノ エンショウセイハツガン ソウキ ビョウヘン(dysplasia)ト サンパツセイセン シュ ト ノ ビョウリガクテキ カンベツ
  • Pathological Differences between Ulcerative Colitis-associated Dysplasia and Sporadic Adenoma

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抄録

【背景】長期経過の潰瘍性大腸炎 (ulcerative colitis: 以下UC) の合併症として大腸癌の発生がある. UCに発生する大腸癌はdysplasiaと呼ばれる粘膜内腫瘍を前癌病変とすること, およびdysplasiaには同時性異時性の癌発生を予測するリスクマーカーとしての意義もあることから, 内視鏡的サーベイランスの生検でdysplasiaの病理診断がなされた場合は, 大腸全摘が治療第一選択として推奨されてきた. 他方, UC大腸粘膜にはdysplasia以外に, 通常の腺腫も偶発することがある (散発性腺腫) . これらに対しては, 経過観察もしくは内視鏡的切除が治療第一選択である. しかし, 治療方針が全く異なる両者の生検組織による鑑別は困難なことも少なくない. 本研究は, UCのdysplasiaと散発性腺腫の病理学的鑑別法を確立することを目的として, 細胞増殖動態, p53蛋白過剰発現, アポトーシス, α-methylacyl-CoA racemase (AMACR) 発現のdysplasiaと通常の腺腫における発現様式を検討した. 【対象と方法】UCに認められたdysplasia29病変と, 炎症性腸疾患を合併しない通常の大腸に発生した腺腫40病変を対象として, Ki-67免疫染色, p53免疫染色, AMACR免疫染色, M30 cytoDeath免疫染色を行い, 増殖帯の分布様式, p53蛋白過剰発現の有無, AMACRの発現頻度と陽性細胞の分布様式, アポトーシスの頻度, を検討した. 【結果】Ki-67染色では, dysplasia群と腺腫群で中央値に有意差はなかったが, 両者で増殖帯の分布は有意に異なっており (P<0.001) , dysplasia群ではbasalの頻度が最も高く (55.2%) , 腺腫群ではsuperficialの頻度が最も高かった (65.0%) . p53蛋白過剰発現の頻度は, dysplasia群が腺腫群に比べ有意に高かった (51.7% vs. 15.0%, P<0.0001) . AMACR発現頻度はdysplasia群と腺腫群とで有意差はなかった (82.8% vs. 82.5%) が, 発現細胞の分布様式は, dysplasia群の72.5%がbasalであったのに対し, 腺腫群では70.0%がdiffuseであった. AI (apototic index) は, dysplasia群が腺腫群が比べ有意に高かった (1.76% vs. 0.61%) . AIのカットオフ値を2.0に設定すると, dysplasia群は2.0以上と未満がほぼ半数であったが, 腺腫群では1病変を除き全例が2.0未満であった, 検討した4因子をもとに対象病変を層別化し, dysplasiaと散発性腺腫鑑別のためのアルゴリズムを作成した. アルゴリズムにより本研究で対象としたdysplasiaの75.9%と腺腫の87.5%は排他的診断が可能であった. 【結論】UCのdysplasiaと散発性腺腫の病理組織学的鑑別には, 従来よりその有用性が報告されている増殖帯の分布様式, p53蛋白過剰発現に加え, AMACR発現様式とアポトーシス頻度も有用な因子と考えられた. これら4つの因子を組み合わせた系統的病理診断を行うことにより, dysplasiaと散発性腺腫のより精度の高い鑑別が可能になるものと期待される. 今後, UC粘膜に発生した種々の異型上皮に本アルゴリズムを適用した前向き研究を行うことで, その有効性を検証することが必要である.

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