ユビソヤナギの広域的な潜在生育域推定及び分布変遷に関する考察

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タイトル別名
  • ユビソヤナギ ノ コウイキテキ ナ センザイ セイイクイキ スイテイ オヨビ ブンプ ヘンセン ニ カンスル コウサツ
  • Potential habitat estimation of Salix hukaoana in macro scale and changes in distribution in Quaternary Period

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抄録

絶滅危惧植物ユビソヤナギの保全方法の検討資料とするため、ユビソヤナギの潜在生育域を推定し、その結果を踏査により検証した。推定は東北地方から中部地方にかけての地域において、気候、地形、地質などの環境要因に基づきGISを用いておこなった。また、過去の生育域を地史的な気候変動との関係から推定し、現在の分布への影響を考察した。ユビソヤナギの既知生育地は、温量指数60.1〜85.5、積雪深80cm以上、TPI値-3〜0、河床勾配0.1%〜6.3%、集水域に占める花崗岩系と第三紀層の合計地質割合61.7%以上の範囲内に分布していたため、これらの条件が対象地域内の河川において重なる範囲を潜在生育区間と推定した。その結果248区間が選択され、既知生育地のほとんどはこれらの区間に含まれていた。このうち54区間を踏査し、新たに7区間にユビソヤナギの生育を確認した。このことから本推定の確からしさが証明された。また、ユビソヤナギの過去の生育可能域は、最終氷期最盛期(約20,000年前)には日本海側の丘陵地2ヶ所ほどに、縄文海進期(約6,000年前)には脊梁山脈沿いの狭い地域に限定されていたと推定された。なおこれらの地域から離れた場所には、先に推定された潜在生育区間であっても現在ユビソヤナギの生育は認められなかった。ユビソヤナギの潜在生育区間は、温度や積雪、地形、地質などの制限により非常に限定的であり、個体群の維持や分布地の拡大は容易ではない。同時に、その地質地形的特徴から、治山・砂防ダム、貯水ダムが作られやすいと考えられた。そのため、未知のユビソヤナギの生育地を早急に発見し、現在分布している河川において適切な保全対策をとることが緊急の課題であると考えられた。

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