南九州第三紀層地域の山地渓流におけるカチオンの起源と水質組成に関する比較考察

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  • Comparative study of cation composition in stream water flowing through the paleogene layer in the southern Kyushu mountains

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渓流水質組成を規定する第一の要因は、流域を構成する基岩の岩種や地質構造等の地質的要因であるといわれてきたが、南九州地域の第三紀層地帯を流れる竹尾川(一ツ瀬川水系; 宮崎県)を対象とした5年にわたる追跡調査により、当該流域では、Na+、Mg2+、Ca2+は基岩風化、特にMg2+、Ca2+はcalcite(CaCO3)もしくはdolomite(CaMg(CO3)2)の機械的・化学的風化を起源とする可能性が高く、K+は河畔域から渓流に供給されるリターの初期分解過程である溶出段階において放出されるK+が渓流生態系における重要な供給であり、渓流水中のイオン組成を規定する重要な因子となりうることを明らかにしてきた。これらの既往研究結果を踏まえ、本研究は南九州地域の第三紀層地帯を流れる渓流水質組成への理解をさらに深めることを目的として、竹尾川近隣の東岳川(大淀川水系; 宮崎県)を新たな対象渓流に加えて、渓流水におけるカチオンの組成と起源について比較考察を行った。両渓流の対象区間(区間長約1.km)に設定した各10地点の瀬(riffle)で水質サンプルを採取し、水温、電気伝導度(EC)、pH、カチオン(Na+,NH4 +,K+,Ca2+,Mg2+)濃度を測定した。採水および測定は、2017年2、5、8、11月に行った。本研究では、水温、pH、およびHN4 +、K+を除くカチオン濃度において、渓流間、および採水時期で、有意な違いが認められ(P<0.05)、pHは東岳川で8~9、竹尾川で7~8であった。東岳川ではCa2+とNa+が総カチオン濃度の8割以上を占め、且つ、その割合はほぼ1:1であり、各カチオン濃度の占有率は観測期間中はほぼ一定であった。また、Ca2+濃度と他のカチオン濃度との間には、有意な正の相関関係が認められた(P<0.05)。これに対して竹尾川ではCa2+とNa+が総カチオン濃度のそれぞれ50~60%、18~26%を占め、各カチオン濃度の占有率には季節変化が認められ、Ca2+濃度と正の相関関係が認められたのはMg2+のみで他のカチオンとは負の相関関係が認められた(P<0.05)。東岳川ではリター滞留が促進されない環境下にあるため、リター起源とするK+が占める割合は少ないと推測された。さらに東岳川では、K+を除くカチオン濃度が水温と有意な負の相関関係が認められた反面、竹尾川では水温と有意な相関関係が認められたのはK+だけであった(P<0.05)。これらの結果から、同じ第三紀層地帯を流れる近隣の渓流であっても,カチオンの起源並びにカチオン生成時のバックグラウンド水質や生物作用の違いにより、渓流水のカチオン組成が異なることが推測された。

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