ホーソーンの言葉と声,音楽 : 『緋文字』へつながる短編

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タイトル別名
  • Hawthorn’s Words, Voices, and Music : Short Stories Leading to The Scarlet Letter
  • ホーソーン ノ コトバ ト コエ,オンガク : 『 ヒ モジ 』 エ ツナガル タンペン

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抄録

本論は,ホーソーンの作品を読み解く鍵として,言葉と声,音楽の関係に着目し,登場人物の言葉の言語的な意味作用とそれを支える声との関係や均衡,さらに音楽的な声について考察する。その組み合わせやバランスにより惹き起こされる現象を明らかにし,ホーソーン特有のテーマである罪やロマンスの問題を新たな角度から読み直すものである。 ホーソーンの代表的なロマンスに1850年発表の『緋文字』がある。それより前の1846年に刊行された短編集『旧牧師館の苔』に所収されている「あざ」,「天国行き鉄道 」,「美の芸術家」,「ラパチーニの娘―オベピーヌ氏の著作から―」の4 作品を取り上げ,『緋文字』とのつながりを検証する。 短編にもホーソーンが,芸術作品として人間の心の真実を創り出そうとしたロマンス的要素や,音楽的な声の表現もみることができる。取り上げた作品の登場人物の顕著な特徴として,言葉が,思想や性格と深く関わり体や心の特徴を表現していた。しかしながら,言葉の意味と音楽的な声をバランスよく活かす人物は描かれておらず,その不完全さゆえに日常性を超えた深い人間のドラマが創出されている。登場人物たちのバランスのとれない言葉と声は,「罪」をもつ人間の「逸脱への戒め」と関わっており,言葉の言語的意味作用と音楽的で美しい声が融合できないことが,「罪や逸脱の戒め」を物語化する条件として重要視されたと考えられるだろう。 ホーソーンは短編執筆の頃から,たゆまず様々なパターンの言葉の意味と声の組み合わせを物語の中で試みていたことがわかる。作家であるホーソーンは,声による言葉と文字の関係の可能性を探し続けたのであろう。

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