ウィリアム・ワーズワースの先見性と科学

書誌事項

タイトル別名
  • William Wordsworth: A Poet of Foresight

説明

ワーズワースは,「子供は大人の父」という逆説的な言辞をMy Heart Leaps Upの詩のなかで述べている。この詩は,一般にはRainbow Poemとして親しまれ1802年に創作されたものである。ハーシェルの赤外線の発見が1800年,リッターによる紫外線の発見が1801年ということと無縁ではない。当時センセーションを巻き起こしたこの2 つの発見は,目には見えない熱線が,虹の外側にあるという真理である。科学の発明や発見による進化が産業革命を牽引し,今日の地球温暖化に見られる様々な負の要因を誘発した。そのひとつである温室効果は,赤外線の放射と熱線を吸収する物質の存在が影響している。21世紀に様々な課題を残した発端ともいえる時代に,詩人として活躍したワーズワースは,自然科学と詩に強い関心を抱いた。科学者が発見した真理を詩人は追い駆け,それによる感動を詩に表現した。また重要なことは,科学の負の側面を予見し,人間を総体としてとらえ,歳月と苦しみをくぐり抜けて,生命の尊さに感謝できることを啓示したことである。まだ顕現化されていないあらゆる真理を含む大自然に対する畏怖の念をもち続ける幼児の日々を回想することにより,永生と人間性の栄光を老人こそ奪還できるものであるとの認識を得た彼の詩の射程距離は長いといえる。

収録刊行物

  • 人文研紀要

    人文研紀要 96 135-157, 2020-09-30

    中央大学人文科学研究所

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