海産汚損付着生物の生態学的研究

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  • カイサン オソン フチャク セイブツ ノ セイタイガクテキ ケンキュウ
  • Ecological Studies on Marine Fouling Animals

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1. 海産汚損付着生物の生態学的研究は,これら生物の防除と利用のための基礎的な研究である.しかし現在ではこれら生物は殆んど利用されていない.可能性のある利用法としては,蓄養魚の餌しとての直接的利用と環境指標生物として沿岸漁場,特に養殖漁場の開発や管理面への利用が考えられる. 12. 寄生性及び穿孔性動物を除いた,所謂,付着性動物は,定着生活種と基盤上を自由に移動しうる種類に分けられる.前者は第1次付着生物,後者を第2次付着生物と呼ぶことにする.両者は餌料と摂餌方法をも異にし,前者は海水中の懸濁物を餌とし海水より直接に摂取するが,後者は主に付着微細物を餌にしている. 第1次付着生物は摂餌方法から海水に直接開口する必要があるが,また付着の立体的構造を形成する.立体的付着構造は付着場所をめぐる競合の結果であると同時に,場所の有効な利用の形態でもある.第2次付着生物は立体的構造を形成しないが,第1次付着生物の間や上に付着して生活し得るので,立体的構造が大きくなると付着基盤が拡大されることになるので付着数は増加する. 13. 付着構造と遷移要因とに関係の大きい生物の形態と生育型とにより,付着生物の類型を試みた.まず単独型と群体型に分け,次いで形態と生育型の中より,石灰質の殻または外包の有無,個体の大きさ,同一種群の形と大きさを基準として類型をおこなった(第35表). 各類型に属する生物種の遷移要因との関連を説明し,類型化により群集の遷移過程をも容易に推測できることを示した. 14. 佐世保湾と長崎湾における湾内各水域の付着生物群集と代表種を明らかにした. 種類数は湾中央部で最も多く,湾口及び湾奥になるに従って減少する.また付着生物群集組成の湾口から湾奥への推移は両湾とも共通しており,さらに本州中部以南の内湾では同様な推移がみられることから,付着生物群を内湾の指標生物として利用できるものと考えられる. 両湾での内湾性の指標種をあげると, 湾口水域(弱~中弱内湾性)アカフジツボ,サンカクフジツボ,エボシガイ, 湾中央部水域(中内湾性)シロボヤ,サラサフジツボ,チゴケムシ,フサコケムシ,ヒバリガイモドキ,ムラサキイガイ,エガイ,カサネカンザシ,ヒトエカンザシ, 湾奥水域(中強~強内湾性)ユウレイボヤ,タテジマフジツボ,ナギサコケムシ,ムラサキイガイ,ホトトギス,カサネカンザシである. 15. 長崎湾において貝類遺骸群の分布を調査した.これを指標とした湾内の水域区分と付着生物群を指標とした水域区分とはよく一致した.このことは長崎湾の海況的生物的な特徴と考えられる. 付着生物群の生活域や生態から,内湾の養殖漁場では貝類遺骸群よりも指標としての利用度が大きいと考えられる. 16. 付着生物群の分布と環境諸条件との関係を検討し,内湾での湾口より湾奥へ推移する付着生物群の質と量の変化を規定している直接的要因は,懸濁物の質と量の分布状態であると考えられた. 17. 以上の結果により付着生物の産業的諸問題について検討をおこなった. 防除についての具体的な応用例として,付着ヌタとカンザシゴカイまたはシロボヤの多い水域にある港湾や養殖漁場の諸施設及び養殖生物の管理に関する二・三の対策をあげた.利用面では,未利用資源としての利用と環境指標生物としての利用が考えられる.前者では差当って蓄養魚や釣の餌としての利用がある.後者に関しては,佐世保湾附近の真珠養殖漁場の調査より,付着生物群を指標とした内湾度の異なる漁場では,貝の成長度や珠品質に差があり,中内湾性水域が珠の生産に最も適した漁場であることがわかった.真珠養殖漁場では付着生物調査は容易におこなえるから,漁場の選定や管理面での実際的で有効な資料となる. 18. 本研は総体的に質的な面に重点をおいた.今後は個体群や群集の量的側面の研究を発展させたい.その際には餌量とこれに関連して基礎生産物量も重要な研究課題となる.

長崎大学水産学部研究報告, v.16, pp.1-138; 1964

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