評価規約における収益費用観・資産負債観の意義 : 斎藤学説 (5)

書誌事項

タイトル別名
  • ヒョウカ キヤク ニ オケル シュウエキ ヒヨウカン・シサン フサイカン ノ イギ : サイトウ ガクセツ (5)
  • Hyōka kiyaku ni okeru syūeki hiyōkan shisan fusaikan no igi : Saitō gakusetsu (5)
  • Valuation rule and two conceptual views of earnings : case of Saito theory (5)

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抄録

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斎藤学説は,事業資産・金融資産分類および配分・評価分類というふたつの分類のうえに構築されている。そこで,まず,事業資産・金融資産分類について,その会計への援用可能性を検討し,次いで,前号(『三田商学研究』第62巻第5号)より,配分・評価分類の論理的成立可能性を俎上に載せた。これについては,ふたつの問題領域があると筆者は考えている。すなわち,第1は,配分と評価との区分の問題であり,そして第2は,配分と評価との関係の問題(配分に対する評価の意義の問題)である。第1の問題は,具体的には,割引債(満期保有目的有価証券)の位置づけの問題に他ならないが,その処理につき,斎藤学説では,①償却原価(定額法)と償却原価(利息法)とが等価的代替的に認められていること,その結果として,②製品・機械等の取得原価と割引債の償却原価とが配分資産として括れること,および③売買目的有価証券の時価と割引債の償却原価(および製品・機械等の取得原価)とが,評価と配分という対立概念になっていること,の3点が主張されている。 しかし,この①・②・③は,本当に理論的に成立するのであろうか。その点につき,筆者は疑念を覚えているのである。そこで,前号では,①を検討し,割引債の償却原価(定額法)と償却原価(利息法)とは,等価的代替的な関係にはなく,償却原価(利息法)こそが,割引債の妥当な処理方法であることを筆者なりに明らかにした。その結果を承けて,本号では,②および③の論点を俎上に載せることとしたい。そこで,評価額の性質,損益計算形態,フローとストックとの関係,および損益の性質というよっつの属性を取上げて,その異同を検討した結果,②については,製品・機械等の取得原価と割引債の償却原価とは,配分資産として括れないこと,および③については,売買目的有価証券の時価と割引債の償却原価とには,同質性があることを筆者なりに明らかにした。次いで,本号では,さらに,配分と評価との関係という第2の問題を取上げた。具体的には,斎藤学説では,配分と評価という二項対立における評価概念は,配分概念に対して,「補完」という位置づけを与えられている。しかしながら,その具体的意味は,明らかにされていない。そこで,ここでは,次のような筆者の枠組に沿って,この問題を検討した。 そもそも,評価という概念は,どのような理由により,取得原価主義会計論に導入されたのであろうか。それを明らかにするためには,まずもって,取得原価主義会計論の特質が問題になるが,ここでは,①損益産出活動としては価値生産活動しか想定されていないこと,および②時価の変動が会計の枠組から排除されていること,というふたつの理解が想定されている。したがって,①に着目すれば,企業の損益産出活動としては,価値生産活動のみならず,資本貸与活動(金融活動)が不可欠であり,これを組込むことによって会計は十全な枠組になることになる。こうした理解を,ここでは,金融活動組込み説とよんでおこう。こうした金融活動組込み説に依拠して評価概念を導入した場合,価値生産活動と資本貸与活動(金融活動)とは,企業の損益産出活動としては,等価的であるから,評価概念は,配分概念に対して,等価的になり,補完という位置づけになり得ない。 それに対して,②に着目すれば,時価の変動を組込むことによって,会計は十全な枠組になるので,ここでは,これを時価変動組込み説とよんでおこう。この時価変動組込み説に依拠すれば,売買目的有価証券の時価評価は,売買目的有価証券の取得原価に対して補完的と言えるかもしれない。しかしながら,製品・機械等の配分資産に対して補完とは言い得ない。さらに,この場合の時価概念は,購入時価であり,売却時価ではあり得ない,ということも指摘されなければならない。したがって,時価変動組込み説の立場に依拠しても,評価概念の補完という規定は,正当化できないであろう。 以上のように考えれば,配分・評価という分類は,配分と評価との区分(割引債の位置づけ)という視点からも,配分と評価との関係(評価の補完という意義)という視点からも,理論的に成立しないというのが,筆者の結論である。

論文

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 62 (6), 29-54, 2020-02

    慶應義塾大学出版会

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