起床時体温が低い幼児の組織酸素動態及び手掌発汗速度

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  • Tissue oxygenation and sweat rate on a palm of infant with low body temperature at waking

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抄録

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[目的] 子どもの基礎体温が低下しているという指摘は、1970年代頃からなされてきている。小林ら 1) は、1978~9年に小児の体温を計測し、測定条件がほぼ同等である1955年前後のデータ 2,3,4) と比較したところ、平均値でおよそ0.3~0.6℃低い傾向にあることを報告した。また木村ら 5) は、1970年から1993年までの24年間の小学4年生の起床時及び就寝時の体温を計測したところ、就寝前の体温がほとんど同じ数値を示しているのに対し、起床時の体温が1970年代の平均では36.57士0.27℃であるのに対し、1980年代では36.46士0.28℃、1990年代では36.36士0.31℃を示し、低下傾向にあることを報告した。一方で、従来の水銀体温計に代わり電子体温計が普及してきたことから、不統一あるいは不適切な測定方法による測定誤差の影響も危惧されている 6)。子どもの基礎体温の低下を指摘した上述の報告についても、体温測定方法の不備によるものだとする報告も一部でみられる 7)。このようなことから、子どもの体温低下の真偽については、現在のところも結論には至っていない。子どもの基礎体温の変化に関連する要因として、身体活動量の減少が関与する可能性が挙げられている。朝山 8) は、小学5~6年生を対象に、35℃台を示す子どもと36℃台を示す子どもの1日の歩数を比較したところ、35℃台の子どものほうが少ないことを示した。また柴田ら 9) も小学4年生を対象に調査し、基礎体温が低い児童は1日の身体活動量が少なかったことを示し、さらに心臓副交感神経活動が低値であることを示した。これらのことは、基礎体温が低下傾向にあるかどうかは別としても、基礎体温の低い子どもが何らかの特性を有していることを示すものである。体温は熱の産生と放出により決定されるが、発汗のシステムは、熱の収支に大きく影響を与える機構である。したがって、自律神経系による制御がなされ、かつ体温調節に大きく関与する手掌発汗応答が、基礎体温の低値と関連性があるかどうかは、非常に興味深い。また身体活動量が多いと、骨格筋における代謝環境が発達していることも考えられる。持久性トレーニングを継続して実施すると、毛細血管密度や骨格筋内のミトコンドリア濃度及びミオグロビン濃度が増大することはよく知られている 10,11)。反対に、身体活動量が少ないと毛細血管密度は低く骨格筋機能も発達せず、エネルギー代謝能が低く、体温も低い可能性が考えられる。したがって、体温が低い子どもの循環及び代謝環境を組織レベルで調査すべきである。さらに、これまでの研究は小学生を対象にして実施したものであり、幼児を対象とした研究はまだなされていない。幼児期は個人の生活嗜好を確立する上で重要な時期であるため、行動様式を変えて体温の低値を改善するうえでも効果の高い時期であると考えられる。そのために、幼児の基礎体温の現状を把握し、基礎体温低値にみられる生理学的背景を精査することが、この問題に対する改善策を示していくうえでも必要になってくる。そこで本研究は、起床時の体温が低い幼児に着目し、組織血流動態及び手掌発汗機能に特徴がみられるか、対照群との比較により明らかにすることを目的とした。

[ABSTRACT] The purpose of this study was to investigate the relationships among local oxygenation, sweat rate and low body temperature of infant. Body temperatures of 170 kindergarten infants are taken immediately after waking. The low temperature group was defined and was composed of those with lower temperature than mean temperature by one standard deviation (n = 11). The same number infants (n = 11) were randomly selected in the other participants and were defined as the control group. Both groups were measured sweat rate of a palm, and tissue oxygenation index and tissue hemoglobin and myoglobin (Hb/Mb) index of flexor digitorum superficialis muscle at rest, and during a handgrip exercise and a tactile stimulation on a palm. No significant differences were found between two groups in the sweat rate and the tissue oxygenation index. The low temperature group was smaller tissue Hb/Mb index than the control group at rest and during exercise (p < 0.05). This result might have been expected that low temperature infants were few oxygen supplies in local muscles.

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